映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』監督:フィリダ・ロイド、脚本:アビ・モーガン、2012年

英国の保守党党首であり第71代の首相、マーガレット・サッチャーの生い立ちから首相としての活躍、そして退陣して普通の生活に戻るまでを描いている。

f:id:alpha_c:20121028185647j:image:leftサッチャーというと、フォークランド紛争や公的セクターの合理化、労働組合対策などで辣腕をふるった姿が思い浮かぶ。しかし、あれほどの力を振るった女性の拠り所となる考え方はとてもシンプルな原則だった。

福祉が進むと、人は社会からの支援を当然と考えるようになる。これが進むと、社会自体が崩壊してしまう。彼女は、社会なるものはもともとない、「個人と家庭がすべて」であるとする。初期資本主義の「自立」を旨とする姿に戻すことにより、人も社会も再生するという考え方が彼女にはあった。これは、小さな商店主であった父親から受け継いだもので、自立自助により独立して業を営むというイギリスのヨーマンの伝統によるところのものでもある。

彼女の唱える説はとてもメリハリがあって、素朴で、分かりやすい。しかし、なぜ分かりやすく、また揺るぎないかというと、このシンプルな考え方を父親から幼少期に叩き込まれたせいである。こうした明快さを旨とするサッチャーの姿をメリル・ストリープは好演していた。

引退してからの姿も興味深い。認知症が進み、亡くなった夫デニスの姿が現れては自分に対していつものように話しかける。子どもからも半ば患者扱いされるが、原則だけは忘れない。なれ合った生活は内面が寂しい。独立した生活は外面が寂しい。