ホーチミン→ビエン・ホア→ホーチミン

■行程の概要

12:20 ホーチミン→ビエン・ホア

16:08 ビエン・ホア→ホーチミン

■日記

7月13日(火)

この旅のきっかけとしては、ポール・セルーの『鉄道大バザール』があることは先に記したが、今日は郊外の街であるビエン・ホアまでベトナムの「統一鉄道」を利用して行って見ることとする。といっても事前に切符を買ってあるわけでもなく、どこに駅があるのかも知らない状態だった。

さっそく『地球の歩き方』に掲載された地図を見ると、サイゴン駅(駅の名前は昔ながらのサイゴンという名称を使っている。他にも自分の宿泊しているホテルをはじめ、さまざまなところに旧称であるサイ・ゴン(Sai Gon)が残っている)は街の北西にあるようだ。タクシーでも行ける距離だが、せっかく使い方を覚えた路線バスを利用して向かうこととする。

路線バスは乗ると必ず車掌が寄ってきて、そこで乗車券を購入する仕組みとなっている。車掌にサイゴン駅(Ga Sai Gon)に行きたい旨を言うと理解したようだったのでそのまましばらく乗っていると、どうやら目的の停留所を過ぎてしまっているような気がしてきた。近くの女性に聞いてみると、サイゴン駅はもう通り過ぎてしまったという、なんということか、慌てて降車する。

周りはスプロール化した商店の連なる市街地で、それでなくても狭い歩道はバイクや露店などでとても通れるものではない。車道は車とバイクの洪水で、事故にあわないようにそろりそろりと来た道を後戻りする。近くの人に「Ga Sai Gon」と言ってもなかなか通じない。そんな形でよろよろと戻っていきながら、ちょっとした路地を入ったところにサイゴン駅はあった。自分の感覚としては、タイのターミナル、ホアランポーン駅のような姿をイメージしていたが、もっと裏ぶれた、まさかこんな所に、という場所に駅舎はあった。これを一目見ただけでもベトナムにおける鉄道の位置づけが分かるような気がした。ベトナムの鉄道は「統一鉄道」ということで東南アジアでは有数の路線距離を持っており、マレー半島を縦断するマレー鉄道にも匹敵する路線ではあるのだが。

駅では出札口があり、アオザイ姿の女性係員が切符を発券している。乗客が列を作らないせいか、あるいは予め切符を買う順番が決まっているのか、出札口近くにいてもなかなか係員が自分に取り合ってもらえない。押し合いへし合いしながら随分待っていると、哀れに思ったのか、係員にようやく取り合ってもらえ、通じない英語で隣駅のビエン・ホアまで往復の切符を手に入れることができた。なんと始発が12:20分、出発まで2時間近くあるのだった。

車両は、いかにも中国で使い古されたという最低の客車だった。設備は破損し、車内はゴミだらけといった状態である。これが数千キロを走る国を代表する列車というのだから恐れ入る。しかしなぜか発着時刻だけは正確なのだ。ゲージは1,000ミリで日本の1,067ミリ狭軌よりさらに幾分狭いものである。ビエン・ホアは、サイゴンから40~50分程度の所にある。しかし着いてみると特に何と言うこともなく、特徴ない街がだらだらと連なっているというところだった。子どもがロト(10,000VND)を買ってくれと付きまとう。この子に限らず、路上で商売をしている人、身体障害者などロト売りは多かった。付きまとわれるのも嫌だったので、路上のニワトリを追いかけ、変な人を演出する。

帰りの列車では、数千キロを走ってきて最後の一区間ということになるわけだが、車内がとてつもなく汚い。食べ物や包み紙などのカスでゴミ溜め、座席もしみがこびりついている。そんな中でも列車の動きは心地よく、疲れもともなって少しだけ眠った。

ホーチミンに戻り、今日はとくにもうすることがない。喫茶店でコーヒーを飲みながら一日あったことなどを書き留めた。このベトナムコーヒーだが、コーヒーカップの上にフィルターとなる金物が乗っかっている状態で供される。しばらくしてフィルターを取り除くと飲みことができるが、一口目でいやな濃さを感じた。いわゆるエスプレッソのような純粋な豆としての濃さではない。直感的にはフリーズドライの粉コーヒーをたっぷり入れて少量の湯で溶かしたような感覚の味である。濃さばかりが目立ってしまっている。

市内は路線バスが多く走っているが、ともかくバイクの数が多い。地下鉄があれば少しは違うだろうが、みなバイクを使うので、道が慢性的に込んでしまっている。これはとくに街の中心であるベンタイン市場の前やサイゴン駅の近くなど、バイクの洪水といった様相を呈している。ホントに恐ろしいほどの人の多さ、活力である。かと思えばなぜか道端に座り込んでいる人も多い。木炭を使ってワッフルなどを調理する女性、天秤棒で食べ物や雑貨を運んでいる女性、昼間から中国風の将棋に興じる男性、食べている人、話し込む人、町の人口は600万人を超えているということだが、なぜこれほどにと思うほど人の数は多い。おびただしい数の電線が張られた電柱、上階からかごを使って路上の商売人から物を買う人、中国の街に見られるような無理やりさ、たくましさがある。

この街には一見無秩序に見える秩序があるようだ。

【#10 電線だらけの電柱】

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【#11 道路を渡る子どもたち】

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【#12 サイゴン駅(Ga Sai Gon)】

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【#13 1,000ミリゲージの統一鉄道】

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【#14 ビエン・ホア駅に到着する】

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