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歌舞伎『十二月大歌舞伎(夜の部)』歌舞伎座

今月の夜の部は、通し狂言『雷神不動北山櫻』(なるかみふどうきたやまざくら)でした。

通し狂言を構成する『毛抜』『鳴神』『不動』は、個別の演目としては上演されてきましたが、チラシを見ると歌舞伎座において「通し」で上演されるのは初めてなのだそうです。

この演目は市川團十郎家の十八番で、市川海老蔵鳴神上人、粂寺弾正、早雲王子、安倍清行そして不動明王の五役を務めます。

ストーリーとしては、天皇家の世継ぎ問題に端を発し、約束を反故にされた鳴神上人が日本全体に干ばつを引き起こし、いっぽう朝廷側はなんとか干ばつを終わらせるために雲の絶間姫という絶世の美女を使って策略を講じるというなんともスケールの大きな話でした。

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概ね坦々とした流れではありますが、三幕目には玉三郎演じる雲の絶間姫が登場し、岩屋に閉じこもって上人を色仕掛けでたぶらかし、そして滝に封印された龍神を解き放つあたりから話は結末に向けた展開が始まります。

そして『蘭平物狂』のような大捕り物が展開される大詰第二場「朱雀門王子最期の場」、そして人間界から離れておどろおどろしい雰囲気に満たされる第三場「不動明王降臨の場」と、大きなクライマックスを迎える流れでした。

この十八番はこれまで見たことがなかったのですが、イヤホンガイドを聞いていても、個別の幕の内容はつかめても全体がややつかみにくい、内容だった気がします。これまで「通し」でかかることがなかった、という理由の一つかもしれません。

さて、この上人の話を聞いてすぐに頭に思い浮かんだのが徒然草の第八段「世の人の心惑はす事」でした。

「世の人の心惑はす事、色欲には如かず。人の心は愚かなるものかな。

 匂ひなどは仮のものなるに、しばらく衣裳に薫物すと知りながら、えならぬ匂ひには、必ず心ときめきするものなり。九米の仙人の、物洗ふ女の脛の白きを見て、通を失ひけんは、まことに、手足・はだへなどのきよらに、肥え、あぶらづきたらんは、外の色ならねば、さもあらんかし」

舞台としては陰々たるものでしたが、国全体の干ばつが色仕掛けで解放されるとは、なんとも神話時代のような趣がありますね。

全く話は違いますが、少し前まで歌舞伎座近くに「鳴神」といううどんや巻きずしを出すお店がありましたけれど、今は閉じてしまったようですね。いいお店だったので残念です。