歌舞伎『七月大歌舞伎(夜の部)』歌舞伎座

今月の夜の部は、『悪太郎』『修善寺物語』そして『天守物語』という構成でした。

『悪太郎』は例によって酒好きで長刀を振り回して人に迷惑をかける男(市川右近)が主人公、この甥を心配する叔父たちが一計に案じ、眠ったすきに坊主にしてしまう。目が覚めた悪太郎は、自分が僧になったと思い込み、先ほど酒で迷惑をかけた智蓮坊とともに仏道修行を行うこととし「南無阿弥陀仏」と唱えながらみなで楽しく踊り、大団円となる。狂言仕立ての楽しい舞踊です。

修善寺物語』、今日はここからいつもの歌舞伎とはちょっと違った雰囲気となりました。源頼家から依頼を受け、頼家の顔を写し取った面を作る仕事に没頭していた修善寺の夜叉王(市川中車)でしたが、何度作っても納得のいくものになりません。いつまでも面ができないことに業を煮やした頼家は修善寺を訪れ、直接叱責するのですが、その際、満足はいかないながらできていた面を頼家に渡すこととなります。この面は、その後の頼家の不幸を暗示するものになりました。面というものに魂を込め、完全でなければ納得しない職人気質を描いた作品でした。

滑稽ものではないのに変なところで笑いが起きたり、ちょっと場にそぐわない感もありましたが、鎌倉時代を背景とした物語ながら何か現代的な部分も感じられました。

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そして『天守物語』、姫路城の天守の最上階を自分のものとする富姫(坂東玉三郎)、ここには異形のものが集まり、ここに近づこうとする人間はとり殺されてしまうため、誰も手を出せない空間となっていました。そこに領主から咎めを受けて切腹を命じられた図書之助(市川海老蔵)が登ってきます。いつもであればとり殺されてしまうはずなのですが、富姫はまじめな図書之助の話を聞き、その態度に感心して生かしたまま帰すことにします。ところが下界に戻った図書之助はまたしも領主から疑いの目を向けられ、殺されそうになり、改めて富姫の助けを求めるのでした。

これは泉鏡花の戯曲で、独特のおどろおどろしさがあり、人間界のあさましさをテーマとする作品でした。作品としては面白かったのですが、芝居の最中に失笑があるなどあり困りました。最初の出だしは異界めいた感覚が流れていてよかったのですが、中盤から少し冗長に流れていつもの歌舞伎になってしまったところもあったような気もします。