映画『一枚のハガキ』監督:新藤兼人、2011年

f:id:alpha_c:20120219204047j:image:w360:left太平洋戦争の最中の日本で、貧しい農村を舞台に、長男が徴兵された農家でその戦死をきっかけに家族が病死や自死でこの世を去り、家庭そのものが崩壊していく過程と、そんな中で一枚のハガキがもたらした男女の出会いと人生の再生を描いた作品である。

森川定造(六平直政)は、兵隊としての任地がくじ引きで理不尽に決まり、そして乗り込んだ潜水艦に魚雷を受けて戦死する。

海で死んだ定造には遺骨もなく、そして弟の三平(大地泰仁)も残された妻友子(大竹しのぶ)との短い結婚生活ののち徴兵され戦死。残された父母も病気や自死でこの世を去っていってしまう。友子ひとりが残される。

一人きり必死で生活している友子のもとに、定造と一時期ともに生活していた松山啓太(豊川悦司)が、定造から渡された友子のハガキを持って訪れる。定造の話など語り合ううちに、お互いの境遇が似ていることを感じ、心を通わせるようになる。そして、二人はともに暮らすことを決め、麦畑をこしらえて新しい生活をつくりあげていく。

映画では戦争そのもののシーンは限定的で、農村での残された家族の暮らしを中心に描いていた。また、戦争の理不尽さと、不条理を背負った男女の心の通いあいを中心に描きあげており、おそらく戦争を体験した世代には、その理不尽さが身に染みているだけに共感できるものが多かったのではないだろうか。

しかし、現代のわれわれにはどうか、というと率直なところ伝わってくる部分は少なかったと思う。地味で普通の社会を描こうとしているのに、俳優の演技が過剰すぎるように思われた。小説であれば、自由に想像できるのに、映画となって実像を固定化するのには危険もあるのだと思われた。