自治体と政策( 09)第5回「首長と執行機関」◇放送大学教授・天川 晃

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

・ 現在、国は議院内閣制(一元代表制)、地方は大統領制(二元代表制)をとっている。これに対し戦前は都道府県の知事は任命制であり、市町村長は議会で選ばれ都道府県知事が承認するという議院内閣制のような手続きをとっていた。

・ 首長は議会に対し強い権限を持っている。首長と議会は対立することもあり、議会では地方自治法に基づき首長の信任/不信任を決議することができる。都道府県レベルでは長野県で議会が田中知事に対して不信任決議を行ったことがある。その後田中知事は再選されて議決自体の意味が問われた。また、議会は自主解散を行う権限を持ち、実際に行使されたこともある。

・ (片山鳥取県元知事)議会は大勢の人が集まってくる。その中で議論が行われ方向性が決まってくる。これは地方自治のあり方としては、時間はかかるかもしれないが首長が一人で決めていくことよりも望ましい。首長は議会をわずらわしいと考え、根回しをしてさっさと決めてしまうという方を選択しがちだが、本来議会は議論の場であるべきだ。

・ 実際は個々の議員の活動というよりも会派として活動がなされる。

・ (片山)議会で反対するのは少数派のみで多数派は根回しの結果として賛成に回る、これは議会のあり方としておかしい。知事と議会は車の両輪といわれるが、議会が知事に賛成してしまえば、これは一輪ということになってしまう。

・ (片山)是々非々で議論することに耐えられない人が多い。批判するということは全人格的な否定であるという捉え方をされがちであり、日本社会は是々非々で案件ごとに議論するということに慣れていない。議会に問題あり、という言い方がされるが根回しする首長側にも大きな問題がある。

・ 執行機関多元主義というのも地方自治体の特徴である。知事以外にも教育委員会地方自治法)、人事委員会(地方公務員法)や監査委員のような行政委員会という執行機関が置かれている。これは教育や選挙管理の政治的中立性を保ち、首長の過度の干渉を排除するためである。しかし、委員の任命権や予算は首長が握っており、その優位性は保たれている。

都道府県は、自治法で部局の名称まで決められていた。しかし、2003年の自治法の改正によりこれは廃止され、自治体が自主的に決められることとなった。

・ (片山)組織としては分散的で最終的には統合する形態が望ましい。実務をすべて知事や市町村長が把握するのは無理である。現在は、職員が事務を行うが最終的な責任者は知事や市町村長に集中化されている。しかし、知事や市町村長はすべてを掌握しているわけではない。これを分散し、例えば「これは○○部長の名義で仕事をする」というような形で行うべきではないか。そのためには自治体の幹部職員は民意とのつながり、議会での任免などが必要になるだろう。

・ 指定都市は17あり、そこで暮らしている人口は約2,500万人である。

・ (金井利之 東京大学教授)指定都市の制度として、住民の声が届きにくいということがある。住民一人ひとりは300万人分の1ということになる。国や都道府県であればある程度仕方ないが一番近いところである市町村でさえそうした状況となっていることは問題である。

日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択

日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択

・ 二元代表制について『日本の地方政治』という書籍に著されている。

・ (曽我謙悟 神戸大学教授)この著書ではさまざまな二元代表制の中で日本の地方自治を位置づけた。アメリカのような原初型の二元代表制では、行政と立法を分けている。しかし東欧諸国などの20世紀型の二元代表制では、大統領に権力を集中化させている。日本では20世紀型であり、首長の権限が強く、予算案や条例案を立案している。一方、他の側面として、議会から不信任案を決議されると辞めなければならないという弱さも持っている。知事と議会が対立するのかそれとも協調するのかによって、地方行政の結果は異なってくる。

・ (曽我)有権者が知事と議会をどう選ぶかによって(対立型か協調型か)、対立型では思うような政策展開ができない。一般には知事や市長が強いと思われがちだが、議会は自分から立案する機能は低いものの、賛否を行使してやりたくない政策を止めることはできる。

・ (曽我)地方レベルでは、知事・市長は一人しかなく、それを生み出すために複数の政党が協力し合う連立の形態があった。10年サイクルで議会のあり方は変わっている。当初は自民党社会党だけだったが60年代の半ばに公明党民社党という新しい政党が生まれた。新しい政党は当初社会党と結びついていたが、70年代後半には自民党と結びついて、自民+中道政党という形をとる。80年代後半になると社会党のような革新陣営も自民党と結びつくようになる。90年代になると相乗りが当たり前のようになっていく。

・ (曽我)自治体レベルでは、研究の課題はたくさんある。これまでは国との関係、分権などが中心的なテーマだったが、地方にはそれぞれ独自の政治がある。今まではここに着目した研究はなかった。これまでは国の集権であると考えられてきたがそうでもない。地方レベルでの選挙研究も残された課題である。また、地方レベルの公務員が政策において果たしている役割についてもまだ研究されていない。