技術者倫理( 09)第2回「技術者が意思決定を迫られる状況とは(1)」

技術者倫理 (放送大学教材)

技術者倫理 (放送大学教材)

スペースシャトル「チャレンジャー」の事故(1986年1月)では、当初から固体燃料補助ロケットの密閉用Oリングが燃焼ガスを外部に漏らしてしまう問題があることを技術者は認識していた。

・ しかし、レーガン大統領はこの計画を実施することを宣言してしまい、技術者は愕然とした。

・ 当日は19度と暖かい日だったがそれまでは寒い日が続いていた。また、その際に寒い状況ではグリースがおかしくなること、この計画が失敗することを明確に認識していた。

・ 自分が当事者であったらどうしたであろうか。ステージごとに行うべきことがある。段階ごとの価値と利害関係者を考える必要がある。

・ ステージA:当事者のボジョレー氏(モートン・サイオコール社(NASAの関連会社)の技術者)はNASA経営陣に報告した。「聴きたくないでしょうが、寒い日が続いたときには漏れが生じる」といったが、経営陣も聴きたくないとした。

・ ステージB:低気温での打ち上げは危険である旨伝えたが、一蹴された。たまたまこれまでは幸運で打ち上げができた。ようやく会社の経営陣も認識した。これ以上飛ばせないという文章を書いて技術担当副社長に提出した。問題解決のチームができたが、会社からの援助は得られなかった。15の実験を申請するが、ひとつもできなかった。

・ ステージC:会社の方針に従いながらも上司に進言し、活動・見解を克明に記録した。

・ ステージD:低気温についてNASAから確認があった。打ち合わせをし、経営陣も納得し打ち上げの中止を進言した。これまで下請け会社がNASAに進言することなどありえなかった。ジョイントの欠陥を明示したので中止を確信した。しかし、進言するとNASAのマネージャーは叩き落しにかかった。実験できなかったのでその質問には答えられないことを知っているのだ。Oリングの温度が摂氏12度になるまで待ってくれといった。「寒いと打ち上げられないだと。それじゃ計画がめちゃくちゃだ。」そしてわれわれの提出したデータは不確実だとした。つまり、打ち合わせの結論は最初から決まっていた。そして打ち上げ前夜は摂氏マイナス二度であった。自分は決定的な写真を持っていた。低い温度でグリースが真っ黒になる写真である。これを見せ怒鳴りつけるように説明した。「摂氏12度でこうだ、マイナス2度であればどうなるか分かるだろう」しかし、まったく相手方は聞かなかった。4対0で打ち上げが決定した。

・ 世界中が見守る中、チャレンジャー号は打ち上げられ、そして事故が起きた。チャレンジャー号では、技術者の倫理ということが問われた。ボジョレー氏は安全が第一、次に顧客、製品、組織、最後に自分である。これができなければただのゴム印に過ぎない。主張すべきときに主張する、この信念が必要である。

■コメント

・チャレンジャーの爆発事故、極端な事例ではあるが人の生命や財産にかかわるような重要な行為を行うにあたり、中止すべきことを組織として決定しなければならないケースがある。この事例は明らかに中止すべきであったが、杞憂に終わる場合もないわけではない。正確な判断という側面も重要である。