「まとめ 新しい世界史へ」(UTokyo OpenCourseWare 学術俯瞰講義)【「世界史」の世界史 第13回】東京大学教養学部 後藤 春美
■内容
1.これまでの講義まとめ
- 日本における「日本史」(松井洋子先生)
- 前近代日本における歴史叙述は中国にならい、支配権力による正史編纂こそが歴史だった。
- 18世紀ころからは家・村・地域の歴史をかたることも行われるようになった。
- こうした伝統が近代歴史学に引き継がれている。
- 「正統」の歴史と「王統」の歴史(杉山清彦先生)
- 中国におけるもともとの「歴史」とは、支配の正当性を示す主張であり、実証とは関係なかった。
- 正史とは正統の歴史であり、国民の歴史とは異なる。一方では、中国は、領域が曖昧であり、国民という概念を固めること自体が難しい。
- 中国における天命、天子、王統の系譜などの概念は中央ユーラシアに起源を持っている側面もある。
- ヨーロッパにおける「歴史」の誕生(西川杉子先生)
2.羽田正『新しい世界史』第3章
- 羽田正は、国民国家の歴史に偏り過ぎると、国家間の対立を激化させるものになりかねないとして、地球市民のため、「世界はひとつ」を旨とする新しい世界史の方向を模索している。
- 方向性としてのグローバル・ヒストリーは、英語圏で成立し、その世界観が反映してしまっているという欠点がある。
- 中心性を排除し、関係性を重視する歴史学へ。中心性という点では、ヨーロッパという言葉には、いろいろな価値判断が付加されてしまっており、好ましくない。(しかし、一方で地域としてのヨーロッパはあるのでこれは無視できない。)例えば、モノの世界史(川北稔『砂糖の世界史』)や、海域世界史(ブローデル『地中海』)などは先駆的な取り組み。
3.若干の考察
- 新しい世界史は、まだ問題提起の状態。これからの取組が必要。
- 歴史学の基本は実証であるということはこれまで担当した教官の共通点。主張ではない。
- 自分の研究のみならず、先行研究の成果をバランスよく踏まえた共同研究が必要。
■感想
- 一つひとつの個別の実証の取組が否定されるわけではなく、これらを土台として、どう捉え、考えるかという部分が新しくなり、また補完するような研究がなされていくということだろう。
- われわれの意識を変える、という点では、新しい考え方の枠組みに沿ってつくられた画期的な大作(例えば『地中海』のような)が求められているのかもしれない。
■講義動画
まとめ 新しい世界史へ Summing Up: Towards a New World History | UTokyo OpenCourseWare
■参考文献
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