「実証すること、法則を見出すこと」(UTokyo OpenCourseWare 学術俯瞰講義)【「世界史」の世界史 第3回】東京大学文学部東洋史学研究室 島田 竜登

■内容

1.「近代歴史学」と実証主義

  • 近代歴史学実証主義に基づいて構築されている。実証とは、「ある対象の過去の姿を、時間軸に沿って実証的に整理・確定して示す」であり、「厳密な史料(文献・文字・記録・画像など)批判・解釈によって過去をあるがままにとらえようとする」(羽田正)である。
  • これは、ランケの弟子のリースが持ち込んだ考え方であり、その後の歴史学研究を支配することとなった。西欧では、「近代歴史学」と取り立てて言われることはない、日本特有ともいえる。
  • しかし、実証は万能か?というと、1.史料を集めることの困難さ、2.因果関係の説明にあたっても推論は行わざるを得ないこと(どんな意図で?)、3.このため完全に客観的であることは不可能 である。
  • 基本は実証主義だが、叙述には個性が出る方が歴史学の面白さともいえる。

2.法則定立型歴史学

  • なぜ歴史を研究するのか?好きだから、成功と失敗の歴史に学ぶ、法則をとらえて将来を予測する、将来をよい方向に導く、など。
  • 実用主義は排除し、実証主義に徹するのがランケ以来の歴史学だが、事実上歴史学の研究において実用主義は多かれ少なかれ意識されている。
  • これまで、歴史の法則としてリスト、ヒルデブラント、ロストウが発展段階論を提起してきたが、もっとも歴史家に対して影響を強く与えたのはマルクス史的唯物論である。(生産様式:アジア的→古典古代的→封建的→資本主義的(→共産主義))生産力と生産様式・生産関係で説明している。生産力は常に発展するが、生産様式(社会システム)はすぐには変わらず、そして矛盾が高まり、転機を迎え、革命により様式が変わる。
  • しかし、これも限界がある。西欧のモデルとはなってもその他の地域に適用可能かどうか、また、「アジア的生産様式」はそもそも分かりづらい、共産主義の失敗など。法則定立的歴史学は、考え方は分かりやすく補助手段にはなりうるが、すべてを説明できることはできない。
  • 実証主義と法則定立型のミックスでこれまで歴史学は構築されてきた。
  • 法則は非常に興味深い。そしてそこからどう逸脱しているのかを見るのも面白い。
  • 法則を意識するとき、現在と過去のつながりを意識することになる。しかし、一方では対比を意識して提示する研究のあり方もある。

■感想

  • 歴史学とはどうあるべきか、というのは難しい問題だが、人間はまずは自身が生きるというところをもっとも重要な要素として動いている。ここに着目すると、ある意味ではアナール派のような「変わらないもの」を中心に据えながら変化を追う歴史への視座が生まれてくる。
  • 法則は重要だが、法則ありきでは歴史の把握が明らかにおかしくなる。この危うさが歴史学には常に付きまとっている。

■講義動画

実証すること、法則を見出すこと Verifying and Discovering Laws | UTokyo OpenCourseWare