「世界の世界史」(UTokyo OpenCourseWare 学術俯瞰講義)【「世界史」の世界史 第1回】東京大学東洋文化研究所 羽田 正

■内容

1.歴史の種類

  • 存在としての歴史:実態としての歴史。歴史そのもの。
  • 記録・叙述としての歴史:文字で残された歴史。叙述:過去をよみがえらせる。一方で書かれなかったものもある。歴史家の叙述と小説・ドラマはどう違うのか。小説・ドラマは何を作っても構わない。歴史学者は、残っているものを根拠に叙述する。
  • 高等学校で教えられる日本史と世界史:なぜ日本史と世界史の二本立てなのか。世界ではほとんど中高等教育において歴史教育が行われているが、こうした形式で教えているのは日本だけである。
  • われわれは、こうした教育を通じて、世界をいくつかの地域に便宜的に分け(四大文明イスラーム世界、地中海世界など)理解するようになっている。しかしこれが妥当なことなのか?

2.世界各国での歴史教育

  • フランス:単に「歴史」(Histoire)と称された教科を学習する。フランス史などではない。世界>ヨーロッパ>フランスといった構図。日本はほとんど出てこない。つまりフランス人はほとんど日本のことを知らないということ。しかし、日本人はフランス史のことをかなり勉強している。
  • イラン:「イランと世界の歴史」。イランの歴史を中心に世界の各地域の歴史に及んでいく。日本の歴史に近い姿だが、日本のように世界を各地域に分けるということはしていない。
  • 中国:「世界通史」。中国のことが一切出てこない。中国史については、別に学ぶようになっている。中国は独自の発展をしてきたという意識を持っている。
  • 台湾:「歴史」。台湾史、中国史、世界史
  • 日本との相違点:ヨーロッパ諸国は現在のわれわれを知るために、というスタンスで構成されており、関わりのあることを中心に書いている。アメリカでは、くっついたり離れたりする各世界というとらえ方をしている。

3.世界史に関わる問い

  • 世界史とは何か?:「世界史」という捉え方自体がとても現代的。300年前にはそうした考え方がなかった。
  • 誰が世界史を書いたのか?:これは次回に検討したい。
  • なぜ世界史を学ぶのか?:自分で考えてほしい。

■感想

  • ブローデルは、生涯を通じて地中海の歴史に取り組み、最後にフランスの歴史を自らのスタイルで叙述することに取り組もうとしたことが思い出される。歴史をどう学んできたかは、歴史研究の姿にも大きな影響を及ぼしているはずだ。
  • アメリカの研究者は、アメリカの研究スタイルで比較的よく日本を研究している。これも同様に少なからず歴史教育が影響を与えているところが大きいのではないか。
  • なぜ、世界史を学ぶのか。地理・気象・植生、言語構造・文化、生活・慣習など大きく異なる世界がどこまで参考になるのか。また、歴史は「教訓」なのか。「よき方向」ということをとってみても解答は短期、中期、長期で異なるだろう。したがってある選択された価値基準の中での「よき方向」でしかないはずだ。
  • 学ぶ理由としては、われわれ自身をよりよく理解するため、相対化して今いる立ち位置を見定めるためとしかいいようがないのではないか。

■講義動画

世界の世界史 World History throughout the World | UTokyo OpenCourseWare