映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』監督:ジャン・ジャック・アノー、原作:ハインリッヒ・ハラー、1997年

ハインリッヒ・ハラー(ブラッド・ピット)は、オーストリアの登山家で、アイガー北壁を初登頂(1938年)するなど輝かしい実績を持っている。1939年、彼は未だに人を寄せ付けないヒマラヤの高峰ナンガ・パルバットの登頂をドイツ=オーストリア連邦の国家的ミッションとして目指し、パーティーのメンバーと遥かインドまで遠征する。

しかし、登攀には失敗し、しかも下山する道中でイギリス軍に捕らわれてしまう。これは、当時勃発した第二次世界大戦で英独両国は敵対する立場となったためである。ハラーは何度も脱走を試み、失敗するが、ついには仲間と協力して脱走に成功する。だが、英国の支配下にあるインドに戻ることはできず、同じく囚われていたペーター・アウフシュナイター(デヴィッド・シューリス)と北の山岳国家、チベットを目指した。その道は険阻でかつ気候も厳しく、人々は外国人を拒んでいる。途中、盗賊にも襲われるがなんとか生きて逃れ、ついには首都のラサに到達する。

f:id:alpha_c:20121030204723j:image:leftラサでは、当初人々の冷たい仕打ちを受けるが、願いがかない若き王子ダライ・ラマ(ジャムヤン・ジャムツォ・ワンチュク)への謁見を果たす。ダライ・ラマは、西洋の知識を持つハラーを重用し、二人は親交を深める。しかし、この平和な国、チベット毛沢東の中国が侵攻を開始しようとしていた。

この原作は、非常に興味深く読んだ思い出がある。とくにラサに至るまでの過酷な道のりは一級の冒険小説だったと言える。しかし、映画では描写は、ダライ・ラマとの交流と中国との戦争に置かれ、この道のりは小説ほどは真に迫る内容ではなかった。その点やや不満ではあるが、ダライ・ラマ役の少年が存在感があり、中国の理不尽さも上手に描写した作品で、内容的にも充実していた。

また、劇中で重要な役割を持つ小道具としてドビュッシー『月の光』を奏でるオルゴールがあった。この映画を思い返すときにはまっさきにこの音色を思い浮かべるだろう。