シネマ歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』歌舞伎座、平成22(2010)年2月

f:id:alpha_c:20121008112013j:image:left佐野次郎左衛門に中村勘三郎、八ツ橋に坂東玉三郎、そして繁山栄之丞に片岡仁左衛門という配役で平成22年2月歌舞伎座さよなら公演を収録したもの。

この狂言のいいところは、まず冒頭から花魁道中が連続で登場し、舞台上の色合いといい響く音といい華やかさや重厚感があり、それが高まっていくところだろう。これが、佐野次郎左衛門という田舎者が驚きあきれる姿と対比することでなおさら際立ったものになる。

勘三郎は、気の良い田舎者っぷりが板についている。一方、玉三郎は他の花魁との格の違いをすでに登場場面から漂わせている。衣裳も豪華で着物には八ツ橋の絵柄があしらわれている。(舞台セットは先日見た『御所五郎蔵』とまったく同じだった。)

次郎左衛門が八ツ橋を見初めるエピソードから一転して次の幕ではすでに次郎左衛門は八ツ橋に通いつめるようになっている。通し狂言でないから、ということはあるだろうけれど、ちょっと唐突感があるところでもある。(というのも、遠く隔たった関係が急に接近してしまうので)

あとはやはり縁切りの場面、シネマ歌舞伎は大写しなので、ここで役者が見せる細かい演技がよく見えてくる。とくに勘三郎勘九郎親子の涙ながら、声を振り絞っての演技は人前で恥をかかされた者の哀れみがよく伝わってきた。

以前は平成20年12月歌舞伎座幸四郎演じる次郎左衛門を見たが、真面目さや朴訥さが特徴的な幸四郎に対して、勘三郎は人間味や大詰めでの豹変ぶりなどが見事で、演技としても分かりやすい印象だった。