映画『ガタカ』監督・脚本:アンドリュー・ニコル、1997年

ヴィンセント(イーサン・ホーク)は自然妊娠により産まれたが、彼の生まれた社会は遺伝子技術が発達し出生時点で遺伝子診断が行われるシステムとなっていた。彼はこのシステムにより、生まれたその時点で身体能力が低く余命も短い「不適正者」と判定された。一方、弟のアントン(ローレン・ディーン)は人工受精された卵子の中から性別や能力のみならず髪の毛や瞳の色まで選り分けられる、この社会では「通常の方法で」産まれた。ヴィンセントは発育は劣り、10歳の時点で身長も弟に抜かれ、海で何度競泳しても負けてばかり、生育ぶりはまったく医師の出生時判定どおりとなった。

この社会は遺伝子判定で適正な者とそうでない者を、違法でありながら半ば公然と区別し、適正な者しか知的・管理的労働に従事できないようになっていた。ヴィンセントは掃除夫として働きながら勉強と身体の鍛練を行い、あるとき清掃に訪れた宇宙局「ガタカ」に正職員として入局し宇宙へ旅立つ日を夢見ていた。だが、「不適正者」である限りはいつまでたってもその夢を実現することはできない。

f:id:alpha_c:20120920205348j:image:leftヴィンセントは夢を実現するため、「不適正者」としての自分を捨て優秀な他者になりすます違法な契約を結ぶ。彼はこの契約により、身長を無理やり伸ばすなど身体改造を受けるとともに、競泳で銀メダルをとるほどの能力を持つ適正者でありながら交通事故で下半身麻痺となったジェロームジュード・ロウ)から血液や尿などさまざまな場面で証拠として提出を義務付けれられる遺伝子を常時受け取るようになり、念願のガタカへ「ジェロームとして」入局する。

ガタカでは毎日ゲートで行われる遺伝子検査などを、ジェロームから受け取った血液や尿を提出することで誤魔化すとともに徹底的に身体を掃除しヴィンセントとしての皮膚や髪の毛など遺伝子情報を持った痕跡が局内に一切残らないようにする。一方、毎日の仕事にはその能力をいかんなく発揮して認められ、難しい選考試験も突破し、念願だった宇宙への派遣が決定する。

しかし、あるとき彼が不適正者であることを上司に気付かれてしまう。そしてその上司は殺されて遺体として見つかった。ガタカにおけるこの殺人事件を担当したのはヴィンセントの弟アントンだった。アントンはガタカで働くヴィンセントをかつての兄とは気がつかない。アントンとチームを組んだ古参の刑事は、犯人は不適正者であると確信し、執拗に局員の遺伝子検査など捜査を重ね、ヴィンセントは追い込まれていく。

f:id:alpha_c:20120920205347j:image:leftDNAの二重らせんをほうふつさせる階段を舞台装置として使うなど映画として細かい部分に力も入れていた。テーマとされた「遺伝子による人間の優劣判定」については、現代では出生前診断も行われるようになり、この映画で実際に描かれる「選り分け」も技術的に可能になりつつある。

これまでは、生まれてからどう教育するのか、ということがこの世に生を受けた人間の課題だったが、ガタカで描かれた社会はそうではなく先天的に人間は決まっているのだという決定論に基づいている。もし先天性と個人の能力が大いに関係のあるもの、ということを前提とすると、ガタカほど極端ではないにせよすでにそうした決定論による社会は実在していることになる。

最後に個人の感想としては、映画としては、SF作品というより、「遺伝子を題材とした刑事サスペンス」といった位置づけの方がふさわしい気がした。スケール感がやや小さいものの、内容的には重厚だった。