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映画『戦火の馬』監督:スティーブン・スピルバーグ、2012年

アルバートの父テッドはかつて従軍したボーア戦争で大きなけがを負い、今はイギリスの荒れた土地で小作を営んでいる。与えられたこの石ころだらけの土地を耕すためには頑丈な農耕馬が必要だ。その馬を得るために訪れた村の競り市で、テッドは精悍な若いサラブレッドに目を奪われてしまう。貧しくお金らしいお金を持っていないにもかかわらず、周りの制止を振り切って競りに参加し、とうとう30ギニーという途方もない大金をかけてそのサラブレッドを手に入れる。

f:id:alpha_c:20120903210721j:image:leftアルバートは、父が返すあてのない借金をして手に入れたその馬を「ジョーイ」と名付けて愛した。彼は気性の荒いジョーイを大切に育て信頼関係を築き、調教を積む。ところが地主はサラブレッドでは農耕ができないだろうと難癖をつけ、競りの借金のカタに家をとりあげようとする。だが、アルバートの必死の努力もあり、想像できないような力を発揮してジョーイは荒れ地を鋤き上げることに成功する。

時あたかもヨーロッパでは第一次世界大戦が勃発し、戦争用にサラブレッドが国に徴されるようになっていった。ジョーイも例外ではなく、あれほどの大金をはたいて買った父親自身がアルバートの反対を押し切って軍に売り渡してしまう。

ジョーイは軍馬として戦いの前線に送られ、その脚力の並々ならぬ強さを力に、若き将校ジェームズ・ニコルズ大尉を背にドイツ軍への奇襲攻撃に出陣する。成功したかに見えた奇襲攻撃だったが、待機していた守備兵の機関銃による迎撃に合い、大尉は戦死、ジョーイはとらえられてドイツ軍で使役されることとなる。いったんは脱走兵とともに戦地を逃れ、オランダの老人と孫娘の家庭で保護されるが、孫娘がはじめて許された乗馬中にまたもやドイツ軍に見つけられてしまい、今度は前線への大砲の牽引という重労働に使役されることになる。

f:id:alpha_c:20120903210720j:image:leftさて、前線の向こう側、イギリス軍ではアルバートが志願兵として配置されていた。アルバートは果敢に突撃するがドイツ軍の毒ガスを浴びてしまう。いっぽうジョーイも逃げたものの前線に幾重にも張り巡らされた有刺鉄線に全身を傷付け、瀕死の状態を迎える。

ジョーイはもともと気性が荒く手の付けられない馬だったが、愛情に満ちた調教は彼を賢く優れた馬に育て上げた。その能力を発揮して愛する人や仲間の馬の窮地を救おうとする姿がいじらしい。そして登場人物についても一人ひとりの歴史の重層的な絡み合いがよく描かれていて、例えば負傷兵をかばって自らが怪我をおった父テッドと同じように窮地にたってしまう息子アルバートの姿や、孫娘の形見としてジョーイを戦後の競売で競り落とそうとする老人の姿が印象的だった。また背景としてのイギリスの農村風景も見事に描かれていた。