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映画『小さな村の小さなダンサー』監督:ブルース・べレスフォード、原作:リー・ツンシン、2009年

f:id:alpha_c:20111202210824j:image:w360:leftこの映画は、文化大革命時代の中国の貧しい農村に生まれた男の子、リー・ツンシンが、選ばれて北京でバレエの教育を受け、さらに実力を認められてアメリカのヒューストンバレエ団に派遣され、その才能を開花させるストーリーで、実際にバーミンガム・ロイヤルバレエ団のプリンシパルとして活躍しているバレエダンサー、チー・ツァオの実話をもとにしたものである。

ツンシンは毛沢東時代の共産主義による教育の影響を多く受けており、幼少期は紅衛兵になりたいと希望するなど、国家元首である毛主席の存在を絶対のものとしてとらえている。こうした心性をもった彼は、派遣先のアメリカでは平気で自国の大統領の批判を口にするアメリカ人に直面し、驚くとともにそれを諫めたりする。しかし、アメリカでの自由に満ちたバレエ研修生としての生活を送るうち、若い女性ダンサーとの恋も生まれ、 母国である中国へ戻るよりこのままアメリカでの生活を続けたいと願うようになる。

f:id:alpha_c:20111202210825j:image:w360:leftそうした中、副大統領も列席する重要な舞台(『ドン・キホーテ』のグランパドドゥ)をバレエ団の主役男性ダンサーが怪我で降板することになってしまい、急きょ研修生であるツンシンが代役に抜擢される。ツンシンはたった3時間しか与えられない状態でバレエ団の芸術監督のコーチを受けて振り付けをマスターする。そうして迎えた本番の舞台では、最初の一歩が踏み出せず逡巡するが、厳しかった中国での生活、育ててくれた人々を思い出し、この難しい役柄を見事に踊り切って観客の割れんばかりの喝采を浴びる。

3ヶ月という研修期間はあっという間に過ぎ、帰国日を控えてパーティが開かれた夜、ツンシンは、恋仲のバレエダンサーと結婚することによりアメリカでの永住権を取得し、帰国を拒否する態度を見せる。しかし中国領事館側はこれを許そうとせず、領事館の一室に彼を監禁してしまう。

この領事館での監禁事件は、彼を支援する弁護士の力を得てマスコミを動かすばかりでなく、両国間政府の事案に発展し、最後には、永久に故国へは戻れないという条件のもとでツンシンはアメリカへの帰化が認められる。

ツンシンは、アメリカでの生活を勝ち取った一方で、中国に残してきた父母や兄弟のことが気がかりでならない。夜も監視されているのではないかと眠れなかったり、眠りに落ちても父母が反革命分子として処刑される悪夢にうなされる。

しかし、バレエダンサーとしての彼は、ヒューストンバレエ団のソリストとして迎えられ、白鳥の湖などの演目で主役に指名されるなど活躍しつづける。そして、さらに数年後『春の祭典』の公演には、ツンシンには内緒で中国の両親が招かれ、舞台で主役として見事な舞踊を披露した彼は両親と涙の再会を果たす。また、ツンシンは中国への帰国もようやく認められ、主役女性ダンサーとともに故郷を訪れて、中国の大地、懐かしい人々の前でその素晴らしい舞踊を披露する。

f:id:alpha_c:20111202211037j:image:w180:leftこの映画では、共産主義という強固な壁の中にありながら、チャンスを得てアメリカへ渡ることでその才能を開花させて活躍し、そしてまた活躍することにより両国間の壁に悩むという図式が象徴的である。

またそうした体制にありながらも、中国の両親やバレエの指導者など、ツンシンを愛情深くそして厳しく育ててくれた人々も、彼が大成するにあたって欠かすことのできない存在として描かれている。

印象としては、ツンシンの心の真っ直ぐな部分や、共産主義の教育を受けた彼でありながらもアメリカでの体験に驚き、そして素直に順応していく過程が爽快だった。人物に屈折がない分、感情的な厚みまでは感じられなかったが、その分だけ伸びやかに生きる彼の姿が気持ちよかった。また、バレエシーンとしては、デビューとなるドン・キホーテのグランパドドゥで見せた粋な男前ぶりがもっとも印象に残るものだった。

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