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映画『ショーシャンクの空に』監督/脚本:フランク・ダラボン、原作:スティーブン・キング、1994年

この映画を見ながら、何度も頭をよぎる問いは、われわれの日常は、この映画で終始一貫して描かれる、不条理な規律に支配された監獄と比べ、本当に自由で、希望に満ちたものといえるだろうかということである。

主人公であるエリート銀行員のアンディは、身に覚えのない殺人罪で二度の終身刑を宣告され、ショーシャンク収容所に収監される。この監獄は、古くて、暗く、「自らが規律である」と宣する所長や看守、受刑者同士の理不尽がまかりとおっていて、希望のない労働が繰り返される毎日である。彼らにとっての楽しみといえば、些細なことを賭け事にして数本の煙草をやり取りすること、たまに看守に賄賂の煙草を渡して「調達」する外界の物品や許可された映画を見ることくらいである。

f:id:alpha_c:20111010095443j:image:w360:leftアンディは、ほかの受刑者たちとは違い、収容所内の鉱石に興味を持ってみたり、そうした鉱石を割るハンマーの調達を収容所の古株として物品の調達役を務めるレッド(この映画のもう一人の主人公でもある)に求めるなど、すでに収監された時点から一風変わった、独特の存在感を見せ始める。かつての銀行員としての知識を活かして看守たちの遺産相続のアドバイス役を買って出るなど、受刑者に対してときに死に至らしめるほどの暴力を振るう非道な看守たちにも認められるようになり、そうして「抜擢」された図書係では、新しい本を買う予算のために奔走したり、受刑者の教育を率先して行うようになる。

アンディが、絶えず他の受刑者たちにその行動を通じて伝えるのは「希望」の大切さである。あるときは看守の目を盗んで収容所内に、寄贈図書に含まれていたモーツァルトのLP『フィガロの結婚』の「手紙の二重唱」をスピーカーで流し、その天国のような美しい調べに、収容所におけるそれぞれの「日常」を送っていた受刑者たちは虚を突かれたようになる。そんな美しい世界を最低の収容所に現出させ、美しさと触れることがいかに大切かを受刑者たちに伝える。

そんな中、アンディとともに図書係を務めていた、鳥を愛する優しい年老いた囚人、ブルックスが仮出所を許され、塀の外の世界に数十年ぶりに戻るが、これまでの塀の内側にあった日常や仲間たちから切り離され、塀の外の社会にも適応できず、自らの命を絶ってしまう。

アンディは、自分が教育役を務めた若い受刑者から自らの無罪を立証できる有力な情報を手に入れることとなるが、これを、囚人たちには聖書の教義を説きながら他方で賄賂で私腹を肥やしている所長に握りつぶされ、その理不尽に憤り、雷鳴がとどろく雨の夜に「調達」した鉱石ハンマーを使って長年にわたり掘り続けた脱出口を使い脱獄をなしとげる。

f:id:alpha_c:20111010095444j:image:w360:left一方、ショーシャンクに残されたアンディの盟友レッドは、出所を望み続けていたにもかかわらず、時が経つにつれ自らの出所に恐怖を覚えるようになっていく。ところが、そんな折皮肉なことに望まない仮出所を許され、塀の外で暮らし始めることとなる。

しかし、慣れない塀の外の社会で暮らすうち、自殺した図書係の老人、ブルックスと同じ疎外感を抱くようになる。そうした中、脱獄前にアンディと交わした約束を思い出し、一縷の期待を持ってアンディの所在を突き止め、「希望」を象徴する澄み切った空のもと、「記憶のない海」太平洋に面したメキシコの小さな町で再会を果たす。

f:id:alpha_c:20111010095442j:image:w360:leftこの作品では、冒頭に記したように、監獄の劣悪さを描きながらも、決して塀の外の日常を希望に満ちたものとしてとらえてはいない。逆に、理不尽に囚われながらも小さな努力を積み重ねてさまざまな改善を実現させたり、受刑者間の暴力沙汰など問題が常にありながら、仲間としての連帯意識があるこの小社会を、ある意味では希望の側面から描いてさえいる。

自由は人間の希望の拠り所ではあるが、自由であれば希望があるわけではない。それぞれの内面と対話して、自らが何をなしたいのかを振り返ったり、周りの人々との関係を大切にしたり、「手紙の二重唱」のシーンのように手の届かないような美しさに驚く機会を持つことは、お仕着せではない、その人なりの人生の羅針盤を作ることになるのではないかと考えさせられた。

f:id:alpha_c:20111010100122j:image:w200:left追記:この映画にはさまざまな伏線や心の動きがあり、ここに書いたのは断面の一つでしかないと考えています。

また、この映画を紹介してくださった同僚で、日頃よりさまざまな形で心の支えになっていただいている方に、この場をお借りして深く感謝をお伝えいたします。


再度の追記(2011/10/16)

改めて一週間後に全編を通して見た上で。

さきに記したこの映画に関する感想は、あまりにも今の自分にひきつけすぎているように思われる。

素直に観ると、「どんな逆境においても希望を失わない」ことこそこの映画の主題と改めて考えさせられた。不条理なことばかりなのに、見終わった後に清々しさが残る。

再々度の追記(2011/11/27)

例えば、「自由」である職場や学校で、「手紙の二重唱」が流された場合、やはりわれわれもショーシャンクの囚人たちと同じ反応をするのだろう。

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