クローズアップ現代「狙われたセーフティネット」

派遣切りなどで住む家を失った人などを対象とする第二のセーフティネットである貸付制度で、100万円を借りながら返さない人が7割を占めている。制度ができてたった一年でこのような状態を迎えている。また、本来貸付の対象にはならない人が貸付を受けたり、制度を悪用するヤミビジネスが現れている。

このセーフティネット雇用保険生活保護の間の位置づけにある。生活の再建を目指して1兆円がつぎ込まれた。総合支援資金は家賃補助と生活資金として最大で月20万円を6ヶ月借りることができる制度である。これまで4万4千人が利用している。連帯保証人がいれば無利子で、いなくても低利子で借りることができる。

大阪府社会福祉協議会では、数人の職員でこの貸付資金の数百件の申請に対応している。定職についていた人が制度の対象であるが、申請書類の偽造などが見受けられる。不正であるとして却下されるケースが一割を占めるが、見極めるのはなかなか難しい。

返済を促す通知を出してもあて先不明で戻ってきてしまう。

ホームレスの男性をアパートに住まわせ、この資金を借りるように申請させる。勤めていた会社や住所は架空のものである。振り込まれる口座は組織が管理している。

組織では、役所の調査能力に限界があることを分かっていてこうした犯罪を行っている。

学習院大学教授 鈴木亘)貸付をするときに住所に通知を出し、これが戻ってきてしまうようであれば貸付を止めるのが簡単ではないか。しかしそんなことすら行われていない。生活支援貸付という制度はあったがあまり活用されていなかったため、社会福祉協議会でもノウハウが蓄積されていなかった。起こるべくして起こった問題である。

この制度、人々の自立に必ずしもつながっていない。建設業を解雇された男性、資金繰りに困り、ハローワークにも通いながら貸付制度を活用することとした。これで月に15万円が手に入るようになり、仕事を積極的に探す気がなくなってしまった。仕事が見つかると貸付が止まってしまう。総額で90万円を借り入れしたが、現在これを返すことは難しいと考えている。貸付により意欲が無くなってしまった人は他にも多い。きちんとハローワークや就職活動をせず、生活保護になってしまう。

大阪府では4名のスタッフで返済を督促しているが、なかなか進まない。電話だけではなく、府税事務所のOBが戸別訪問している。こうした戸別訪問は貸付期間中は行っておらず、いまさら行っても居住の痕跡すらつかめない。

大阪府では、たんに貸付するだけでは自立に向かうのは難しく、就労支援などを組み合わせることが必要であると考えている。

政府はさらに500億円を積みます考えである。

(鈴木)貸し付けるだけで自立をするというのはあまりに性善説過ぎる。失業給付については、自立へのインセンティブがあるが、総合支援貸付にはそれがない。最後の砦である生活保護は厳しい条件であると考えられていたが、今では、生活保護と第二のセーフティネットが近くなってしまっている。対応としては、本人のインセンティブを高めること、専門家などによるサポート体制の整備を進めること、があるだろう。ケースワーカーによる、生活保護に至らないようにするケアも必要だろう。本来はサポートが貸付より先にあるはずだ。制度の見直しは待ったなしである。

■コメント

給付、貸付の制度は悪用と切っても切れない関係にある。補助の制度も同じである。しかし民業として行っている場合は、悪用を避けるためのノウハウがある。

税を原資としているだけに、貸付の焦げ付きは国民の信頼にかかわる問題である。

絵描き(政策)ばかりが、現場と乖離して進められている。現場がまずあって絵が描けるはず、それが行政「経営」だろう。中央で描ける絵には限界があってしかるべき。