福祉ネットワーク「消えた子ども~大阪・二児虐待死事件を追う~」

事件の背景に何があったのか、親子の足どりを追った。

浮かぶのは、親子が転々と住むところを変えていたということ、また行政はこうした子どもを把握できないということであった。

10年前は児童相談所への年間相談件数は18,000件であったが、現在は44,000件を超え、虐待死した子どもは464人に上る。

子どもたちは食事を満足に与えられなかった。また母親はサッカー観戦や海水浴など外泊も繰り返していた。近所の人々は児童相談所へ相談したが、児童相談所は訪問しても応答がなく、帰らざるを得なかった。また、この母親は住民登録もしていなかったため、児童相談所も把握できなかった。住所が決まっていない場合臨検もできない。

最初は三重県菰野町に住民票を置いていた。19歳で結婚、20歳で出産した。そして当時のブログには子どもを持つことができて幸せであることをつづっていた。

住民票のある自治体では予防接種や乳幼児健診、子ども手当などさまざまなサービスを受けることができる。

二人目の子どもが生まれた昨年5月、離婚し、菰野町を出ることとなった。桑名市へ転居届を提出、子ども手当の受給などを申請していたことが分かった。しかし、所得証明書がないため、手続きできていなかった。桑名市では何度か督促をしていたが、宛所不明で戻ってきてしまっていた。民生委員に住所地を確認してもらったが住んでいた形跡はなかった。

親子は名古屋市へ向かっていた。子どもが警察に保護されたこともあった。そのとき虐待の兆候は見られなかった。児童相談所が対応しようとしたが、住民登録がなく、所在すら確認できなかった。そして電話がつながったものの母親からは支援の要請がなかった。

母親は子どもを託児所へ預けてキャバクラで働いていた。月収20万円ほど、家賃や託児所の費用だけで20万円近くになってしまう。その後大阪へ移り風俗店で働くようになる。子育てにも嫌気がさしていた。

7月、多くの行政機関が救おうと動いていたにもかかわらず子ども2人は助からなかった。

山梨県立大学教授 西澤哲)親が存在を消したいと考えたため、子どもも見えない存在になってしまった。

文部科学省の調査では1年以上居所不明の児童/生徒は338人いる。また、厚生労働省の調査では虐待通告の後、居所不明な子どもは19人いる。児童相談所のCA情報システムというものもあるが、虐待のケースとは認識されていなかったためここには乗っていなかった。

(西澤)乳幼児健診を受けていない場合にはこのシステムに乗せた方がいいのではないか。

児童相談所ケースワーカーは一人で107件を抱えている。これは欧米では20件程度でありきわめて多い、という状態となっている。

(西澤)社会が子どもを育てるという言葉ばかりが先行し、実態が伴っていない。子どもに直接サポートが届くようなシステムを考えるべきである。