NHKスペシャル「世界ゲーム革命」

かつてゲームの世界では日本のゲームが市場を席巻していたが、今は欧米勢の巻き返しが強く、勢力が逆転しようとしている。

ゲーム革命といわれる進化の最前線を追う。

2011年に発売予定のゲームでは、金正日が死去して北朝鮮軍がアメリカに上陸するという内容であり、迫真の画像で物議を醸している。このゲームを制作したのはニューヨークのKAOSスタジオであり、ハリウッド映画に匹敵する数十億円の費用、250名のスタッフを投入している。このゲーム会社には元兵士の軍事コンサルタントも参加して実態に近い戦場の状況を再現しようとしている。

もはや、ゲームは子どもの遊びではなく、すでに娯楽の市場では映画産業の売り上げを上回った。平均購入年齢は40歳である。iPadなど新しい端末の登場とともにゲームは爆発的に増えている。

スティーブン・スピルバーグ監督もゲームの制作に本格的に参加している。

かつてゲーム制作は難解なプログラム言語を間違いなくコーディングすることで行うものだったが、アメリカのゲーム制作会社は「ゲームエンジン」を開発し、専門的な知識がなくてもゲームを制作できるようにした。最大16台のカメラでいろいろな角度から映像を作ることができる。このエンジンはパソコンの「ウィンドウズ」のように基幹技術をなしている。

10年前まではゲーム産業は日本の独壇場だった。1995年には日本製品のシェアは全体の7割を占めていた。しかし、2009年には市場が1995年の三倍に伸びたのに対し、日本製品のシェアは3割に落ち込んでいる。

日本政府は「クールジャパン戦略」の一環として、ゲーム産業の成長を後押ししようとしている。

日本では、レベルファイブというゲーム会社がスタジオジブリとコラボレートしたゲーム「二ノ国」が作られた。

カナダのモントリオール郊外のエンザイム社、ゲームの評価を行っている。開発中のゲームを隅々までプレイして問題点を発見する。ときとしてクリエーターの独りよがりとなる作品をユーザーの観点から検証する。

テスティングにかかる経費は制作の1~2割に達する。マーケティングにお金をかけても面白くないものは売れない、という基本的なスタンスである。

同じゲームでも、アメリカ版は血しぶきが飛ぶが、日本版ではそうした場面を極力出さないようにするなどの工夫をしている。

エンザイムでは、ゲームの際の脳の状態を特殊な装置を装着して測る試みも始めた。プレーヤーの集中具合を数値化してどこでのめり込みしどこで飽きたのかが分かるようにしている。疲れさせず飽きさせないゲーム作りの研究が始まっている。

マイクロソフトもゲームの動き始めた。人間の腕そのものをスイッチにし、マウスやキーボードを不要とする研究を行っている。根底からコンピュータの考え方を変える基礎研究である。こうした基礎研究はゲーム会社が束になってかかってもかなわない。開発した「キネクト」という装置で、人間の動きに合わせゲームを展開していく。手の動きでミサイルを発射したり物を粉砕する。ゲームクリエーター水口哲也(45)はロサンゼルスでこのキネクトを利用したゲームをプレゼンテーションした。

ゲームと現実の世界をつなげることが目標である。自分の身体を離れることができる。向こう側の世界があり、自分がつながっている感覚を持たせたいとしている。

ロシアでは、カプラン教授が電波ではなく頭で念じるだけでラジコンカーを動かす研究を行っている。このほか光の点滅で脳をリラックスさせたり、障害者のコミュニケーションに資する研究を行っている。しかし、国からの支援は減るばかりで、教授は研究成果をゲーム会社に売り込んでいる。

ゲームは人間を吸収する可能性を持っている。われわれは新しい「麻薬」を手に入れようとしている。そしてそれを手放すことはないだろう。

ヨーロッパのユービーアイソフト(世界第4位)はゲームクリエーター水口に出資し、ゲーム開発を進めようとしている。

より身体的な感覚を得られるようにバイブレーションを持ち込もうとしている。近い将来、熱さなどの感覚も取り入れ、仮想現実をより具体化したいと考えている。

また、エンザイムも日本のゲームマニアを集めようとしている。年間2000時間のゲームに耐えられず会社を去るテスターも多い。しかし、会社にとっては、いなくなれば補充するだけだ。