サイエンスZERO「原子力発電 信頼回復への道のり」

最近では、二酸化炭素の軽減という視点からも原子力発電に注目が集まっている。現在原子力発電は国内の電力の3割をまかなっており、この安全性をどう高めるかが問題である。

柏崎刈羽原発では7基の発電所があり、ほとんどを首都圏へ送電している。この柏崎刈羽原発は、さきの中越沖地震の際には、炉心が停止し、さまざまな施設が破損したり、使用済燃料冷却水プールから水がもれ出たりした。また周辺自治体への連絡も遅れた。

まず、発電所の破損等については、ここまで被害が広がったのは、地震の揺れが想定外だったということがある。設計時に想定していた揺れの2倍近くがそのときに起きていた。

これを受けて柏崎刈羽原発ではさまざまな耐震・免震装置を設置し、中越沖地震の4~5倍耐えられるような構造とした。

京都大学原子炉実験所教授 山名元)今回の地震では原子炉本体は無傷であったが、周辺設備に被害が出た。当時の耐震指針は1981年に作成されたものであり、これに基づいて原発の設計が行われていた。そして、これを新しいものに見直している作業の中で地震が来た。こうしたことをふまえ、最新の知見をできるだけ指針に取り入れるようにしなければならないということだろう。

(山名)原子力安全・保安院が指針を作成し、原子力安全基盤機構が実際の検査を行う。この事故をふまえ、原子力安全・保安院の上部に原子力安全委員会を設けるとともに、自治体との連携を強化するようになった。

中越沖地震では揺れに二つのピーク(0.1秒後、0.4秒後)があった。当初はピークは一回だけと想定していたが、これにより同じ床でも揺れるところとそうでないところがあり、床自体が軟らかくないといけないことが分かった。そして国は、こうした設計を全国の原子力発電所で取り入れるよう通達した。

次世代の炉は、免震構造を床下に取り入れる設計となっている。

(山名)原子力発電所は想定以上のことが起こっても何重もの余裕を持たせる「深層防護」を必要としている。

柏崎刈羽原発では変圧器の火事が起き、鎮火に2時間もかかったため周辺住民は不安を抱いた。周辺自治体へ連絡が入ったのは1時間後であった。

現在はインターネットで状況を伝える仕組みが作成中である。具体的に何がどこで起きているか伝えられるようにする予定である。

従来とは違う原子炉を構想する研究も東京工業大学で行われている。ウラン238劣化ウランと言われ、資源の量としては豊富であるが、それ自体は分裂を起こしにくい性質を持っている。これに中性子を加えるとプルトニウムに変化する。このプルトニウム核分裂すると、下のウラン238プルトニウムに変わる、まるでろうそくのような形で核分裂が進んでいくもので「キャンドル」と呼んでいる。

また京都大学ではウランではなくトリウムという物質を使う研究が行われている。トリウムはウランの三倍の埋蔵量があるがそれだけでは核分裂しない。やはり中性子を与えることで分裂を行わせる。加速器で陽子を加速し金属板にぶつけると中性子が飛び出し、これをトリウムにぶつけるとトリウムは中性子を吸収する。

(山名)原子力発電の過程で放射性廃棄物は必ず出る。しかしトリウムを使うと廃棄物の量は減る。こうした取り組みは必要である。一方で、信頼感と安全性を高める取り組みを続けていく必要がある。