クローズアップ現代「遅れる日本の医療機器~解消できるか“デバイスラグ”~」

糖尿病患者が自分で薬を注入できるポンプやコレステロールを掻き出す器具など、欧米では普通に利用されている医療機器が日本では利用できない。導入しようとしても審査に時間がかかり、また機器を開発しても審査担当者への相談に240万円かかるなどの問題が指摘されている。

開胸手術をしなくても心臓の弁を取り替えることのできる機器、また手術中の医師を手助けするロボットなど、欧米の医療機器は進んでおり日本では「デバイスラグ」が生じている。機器の審査にアメリカでは1.2年で済むのに対し、日本ではその倍以上の2.9年もかかる。

心臓のポンプも日本では「体外型」が利用されているが、欧米ではポンプを小さくした「埋込型」が主流である。チューブが外れるリスクもなく、装着した人は普通の生活を送ることができる。

なぜ医療機器の審査に長い時間がかかるのか。独立行政法人PMDAでは機器の審査を行っているが、審査を行うスタッフは59名いる。しかし、それぞれの審査スタッフが10件近くを掛け持ちしており時間がかかる。また審査スタッフの知識が不足している現状がある。医療機器メーカーの担当者が驚いたことには、その審査スタッフの質問が医療機器の初歩すら知らないのではないかと思われるレベルであることである。

長野県の精密機器メーカーでは埋込型の心臓を開発したが、PMDAの審査スタッフに治験に当たっての問題点を確認しても、「それはメーカーが確認すること」と、とりあってもらえなかった。このためしびれを切らしてアメリカの審査機関に相談した。すると、すぐに的確なアドバイスをもらうことができた。

このメーカーはこのアメリカでのアドバイスにより日本での治験にたどり着くことができ承認を得ることができた。開発から承認までに20年がかかった。

(国立循環器病研究センター名誉総長 北村惣一郎)医療機器は改良が繰り返される。この改良のたびに審査をする必要がある。また、機器そのものだけでなく材質の内容などをよく確認する必要があり、横断的に分かる人がいないと、やはり確認に時間がかかってしまう。

(森本)欧米で承認されたものを輸入するということではだめなのか。

(北村)医療機器は多種類の産業の集約であり、これを自国で生産されないということであると、国の沽券・品格にかかわる。

骨をつなげ、その後骨と同化するネジを開発した企業もあったが、審査費用に一回数百万かかり、かつそれが数十回かかる可能性があるということをいわれた。また治験の相談に二時間で241万3千円かかるなど、非常に費用がかかる。

一方、アメリカでは国が治験の費用を肩代わりしている。このため資金力の少ないベンチャー企業でも機器を世に送り出すことができる。患者の負担も少なく、治験を希望する患者も多い。

福島県は、医工連携による医療機器の開発に力を入れている。県立医科大が日大工学部に要望し機器を技術開発して、製品を地元企業が試作する。これにより従前の動脈に差し込むのではなく触れるだけで測定でき、患者に負担の少ない血流測定器などが開発されている。

(北村)医工連携は当然のことである。アメリカでは大学の中に医療機器を研究する講座がある。

(森本)なぜ治験の相談に240万円もかかるのか。

(北村)材質から臨床まで細かく審査してその結果を二時間で説明している。たんにその二時間だけではない。独立行政法人であり採算も厳しいためそうした金額になったものと思われる。

(北村)日本では治験に時間と費用がかかる。外国で治験を行うメーカーもある。アメリカのやり方を見習って国家の負担ですばやく治験を行っていくべきではないか。