クローズアップ現代「ワクチンがうてない~世界から遅れる日本~」

世界各国では子供へのワクチン投与の無料化が進められているが、日本では副作用の懸念などからワクチン接種が進んでいない「ワクチン後進国」の状態にある。

ワクチンは弱くした病原体を注射し、抵抗力を高めるものである。しかし、承認されていなかったり、高額だったりして投与が進んでいない。その結果として髄膜炎など重い病にかかる子供が後を絶たない。ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンなど子供用のワクチンをすべて打つためには合計で7万円近くかかってしまう。親も経済的な負担のため接種できない場合が多い。

以前、日本ではワクチン接種率が高かった。しかし、現在は世界的にも低い状態にある。

今年11月の国会で、ヒブ、肺炎球菌、子宮頸がんワクチンを国・地方二分の一ずつの負担で無料化する方針が決定された。しかし、自治体によっては予算的にかなり厳しい状態にあり、実施できるのかどうか不安が残っている。

ポリオワクチンは、日本では後進国中心に用いられている生ワクチンしか投与できない。これを投与すると、数十万人に一人ポリオにかかる可能性があり、実際にかかった子供もいる。生ワクチンではなく、先進国で投与されている不活化ワクチンを利用すればこのような被害は防ぐことができる。

海外に比べ日本でワクチンが承認されるには10年かかっても難しい。審査にかかる体制が整っていない。厚生省は海外のメーカーがすでに開発済みのものであっても、国内の薬業振興や安全性を理由に国産にこだわっている。

国立病院機構三重病院名誉院長 神谷齊)承認という点では、日本は潔癖主義で審査基準も厳しい。一方、費用の問題で言えば、ワクチンは無料化することが必要である。予防接種法で有料と無料の区別がされているが、これを取り払い、国が必ずワクチン供給するという体制にするべきだ。

新たなワクチンの接種に国が消極的になったのはこの二十年のことである。1989年にはおたふくかぜのワクチン(三種混合ワクチン)が無料で接種できた。しかし、このワクチンの副作用の事例が多く現れ、この副作用にかかる訴訟で敗訴した国は1993年に無料接種をやめてしまった。その後、海外では副作用の少ないワクチン(B型肝炎、子宮頸がん等)が開発されたが、国は導入をしなかった。海外ではワクチン開発が積極的に行われたのに対し、日本のワクチン開発については空白の二十年となっている。

国は1994年に予防接種法を改正し、ワクチン接種を「義務」から「勧奨」に変えた。

一方、フランスでは感染症から子供を守るのは国の責任であると考えている。ワクチン接種を受けていない子供は小学校に入学することができない。また、フランスでは、どんなワクチンを接種し、どんな副作用が起きているかを徹底的に調査してそのデータを国民に開示している。

(神谷)日本ではフランスほどではないが調査は行っている。しかしその結果はオープンにされていない。ワクチンを打ったときのメリット・デメリットが分かるようにしなければならない。ワクチン接種の可否を決定する大きな組織も必要である。