仕事学のすすめ 丹羽宇一郎 人間力養成術 <新><全4回>第1回▽専門力

丹羽さんは、伊藤忠商事の社長として4000億円の負債を一括処理した。また、従来のビジネスモデルにこだわらない新しい取り組み、例えばこれまで商社は供給サイドに立っていたが、消費者サイドにあるコンビニエンスストア業界に進出し、特色あるカロリーの低いパンの製造などを行ってきた。これは丹羽さんが59歳に取り組んだ仕事である。

社員には利益の根源に迫れ、と言っている。物が足りないときは「原材料の供給」に着目する、原材料が余ってきたら「消費者に売る」ところに着目する。

丹羽さんは1962年に伊藤忠商事に入社した。入社してから、アリ(一生懸命働く)、トンボ(複眼的な思考)、人間(自ら理論をふまえて考える)のように変化していく。

1968年にアメリカへ渡り、大豆の買い付けを行った。当時日本は200万トンの大豆を輸入していたが、その多くを丹羽さんが手がけていた。しかし、大豆の相場の変動により一月で15億円、現在でいうと75億円の含み損を抱え込むこととなった。当時の会社の一年分の利益を損失として計上してしまった。一生懸命仕事をやればもうかるというわけではないということを知る。各地に車を走らせ、農場主から情報を仕入れた。そして秋には霜が降りて大豆価格が上がるだろうという見込みを立て、見事に的中した。

38歳で帰国し、タイトルにアメリカと付く本はすべて買って読んだ。現場で得た情報を業界誌に掲載するようになる。国際穀物事情の専門家として名を馳せるようになる。与えられた仕事を深く勉強することがこうしたことにつながった。中途半端な専門性ではダメ。そうしたことができれば経営者は、この社員は他の仕事でも通用するのではないかと考える。

仕事は論理、経営も論理である。読書は論理力を鍛えるものである。専門を磨くとは論理力を磨くと言うことである。ナンバーワンになるには論理的思考を身に着けることが必要である。

専門性とは専門知識のことではなく、能力と論理力である。