プロフェッショナル 仕事の流儀「自分を消してヒットを生みだす~佐藤卓~」

日本一売れているガム(XYLITOL)、牛乳(おいしい牛乳)、ウィスキー(PureMolt)はグラフィックデザイナー佐藤卓(54)によって生み出された。

佐藤は海外出張に行くと、絵や雑貨を大量に買い込んでくる。文房具などの小物から何に使うのか分からない道具まで気になったものはすべて集めてくる。

デザインの製作に当たっては「”自分”を消す」のが流儀である。デザインは、それ自体が主役ではなく、製品の奥とつなぐものであると考えている。

長期にわたって売れ続けるものが多いのが佐藤のデザインの特色である。強烈なデザインではないが、なぜか生活に溶け込んでしまう。あっと驚かせるものではなく、自然に入り込むようなデザインに醍醐味を感じている。

デザインするに当たって重要と考えているのは、「商品の本質をつかんでそれをデザインにする」ということである。

佐藤さんは使いやすさを一番重視している。自身がデザインした調味料のビンなどは、円錐形でどっしりしており、調理しながら片手で開けられ、残量が分かりやすい。

また、物語を込めることも好きである。ガムのデザインで、ペンギンの一匹が手を上げていたり、招き猫の口の形が発音になるようにしている。

仕事では打ち合わせを重視している。一日に6回も7回も打ち合わせする。コンセプトを決め、スタッフがデザイン案をいくつも作成し、そして修正を続ける。

クライアントの意見を聴くことに力を注いでいる。あえて修正意見や課題を聴きだし、掘り下げることでデザインを作り上げていく。

通常、デザイナーはクライアントから口を出されることを嫌がる。佐藤はまったく逆で、意見を聴いてさらによくしていこうというスタンスである。

佐藤の流儀は「依頼以上の仕事をする」である。依頼を受けてそのとおりやるのは仕事ではない。さらに付加価値を付けて返す。そのためには提案まで踏み込む。店を良くする手立てがないかとことんまで探す。

面白くない仕事はない。つまらなく見えても面白くできる。あきらめたらつまらない仕事になる。

東京藝術大学を出て、大手の広告代理店にデザイナーとして採用された。しかし、文字の切り貼りばかりで醍醐味を感じられず、デザインのコンテストに出品したがことごとく落ちてしまった。一方日比野克彦など脚光を浴びる後輩も出てきた。

ウィスキーのカタログを作っていて感じた「飲みたいウィスキーが一本もない」という感情、この佐藤の言葉を聞いた先輩が企業に話を通し、ウィスキーのデザインの企画案を練ることとなった。一から商品を考えるというのは初めての経験だった。ウィスキーの「中年男性の酒」というごてごてしたデザインを変えられるかどうか、考え続けた。北海道に行き、ウィスキー工場で原酒を差し出され、そのピュアな味に驚いた。理科の実験で使うようなビンを使い原酒そのものを見せることを考えた。この商品は瞬く間に売れ、在庫がなくなってしまった。この経験が大きかった。世の中と共鳴できた瞬間だった。

北海道函館地方の米「ふっくりんこ」、クライアントは高級感を感じさせるものにしたいという。しかし「ふっくりんこ」という名前と「高級感」は容易に結びつかない。スタッフが案を作るが、デザインしすぎはダメと指摘する。まずコンセプト。正面から堂々とおいしい米であることを打ち出すべきだ。また、ありきたりではなく世界にひとつしかないものにすべきではないか。何度も品種改良を重ねられている。これまで改良されてきた米を背景に使うべきではないか。新しいデザイン漢字(「米」ヘンに「ハコダテ」、函の中を「米」に)まで作ってしまう。

イデアの気配を感じること。誰でも気がつくことだが、それをこじ開ける。

消費者は細かな違いを一瞬で感じ取る。そのためにもデザインは重要である。

クライアントの意見を聴き、その考え方を汲み取りデザインに生かす。

クライアントにはいくつかの案を提示するが、デザイナーとしてはこれが一番ではないか、という案もある。しかし、それをクライアントに押し付けることはしない。軽重を付けずにプレゼンし、クライアントに選んでもらう。デザイナー一押しの案をなぜ選んでくれないのか、と不満を持つのではなく、意見を生かしてさらにいいものにしてしまう。

プロフェッショナルは、「さりげなくいい仕事をする人」である。「頑張る」、「一生懸命」などは当たり前のことであって、これを前に出すようであってはいけない。