クローズアップ現代「広がる波紋 遺伝子組み換え動物」

3倍のスピードで成長する鮭、伝染病感染を防ぐための蚊、体が光るメダカ、動物アレルギーでも飼える犬や猫など、遺伝子組み換え技術による動物が生まれている。

こうした動物が開発されることで生態系や食を通じての人体に対する影響が懸念されている。

群馬県前橋市では、地元の農家と研究者が連携して蚕の開発を始めた。蚕の卵にヒトや豚の遺伝子を組み込み、きわめて細く丈夫な意図を吐き出す。これは医療用の人工血管に利用される予定で、ヒトの遺伝子を使っているためヒトへの親和性が高いという。年内に初出荷を行う予定で、県内の養蚕農家に利用を呼びかけていくことになっている。

アメリカでは遺伝子を組み替えた犬や猫が販売されている。これらの動物は子どもが生まれてもその遺伝子を引き継ぐことはないという。すでに各国へ輸出もされている。

また、遺伝子を組み替えた動物をはじめて食用にしようという試みも行われている。ゲンゲの遺伝子を組み込み、3倍のスピードで成長する鮭である。開発されたアメリカでは、公聴会でも技術開発を尊重し、問題があるという明白な証拠がなければ出荷を容認するという態度であった。

遺伝子組み換え動物を積極的に放とうという試みも始まっている。マレーシアでは、熱帯シマカのオスの遺伝子を組み替えて放ち、交尾したメスから生まれた幼虫が死んでしまうようにし、毎年100人が死亡しているデング熱の発生を防ごうとしている。来月にもマレーシア政府はこの蚊を放とうとしている。この取り組みにはWHOも注目しており、うまくいけばインドなどでも利用したいとしている。

大阪大学准教授 平川秀幸)マレーシアはカルタヘナ議定書に参加しており、事前の調査はきちんと行っているとは思うが、蚊を食べた動物に影響がないのかどうかまで確認をしているのか分からない。

(平川)アメリカからの遺伝子組み換え猫などの日本への輸入は個人輸入だと思われるが、これはカルタヘナ議定書に違反している。

(平川)アメリカではバイオ産業で世界をリードするという国家計画があり、規制は甘く、カルタヘナ議定書にも参加していない。一方、ヨーロッパは「予防原則」、つまり将来的に悪影響を与える可能性のあることは明確な証拠がないとしても規制していこうというスタンスである。

クレイグ・ベンター博士は、コンピュータを使って人工のまったく新しい生物を作り出した。さきに紹介した遺伝子組み換え鮭の組み換え率は全体の1万分の1であるが、これに対しベンター博士はすべて自分で開発した遺伝子で生物をを作り出した。これにより思い通りの性質を持った生物を作り出せるという。砂糖水を使って軽油を作り出す細菌がすでに開発されている。

オバマ大統領は、全米から専門家を呼び、こうしたことについて今後どうしていくべきか意見を聴取した。専門家からはこの技術の悪用によりバイオテロが起こされる可能性があるという意見が提起された。実際、遺伝子合成会社に、同時多発テロの後に使われた炭そ菌やボツリヌス菌に似たものを作り出す依頼があった。

(平川)悪用は防がなければいけないが、規制が強すぎるとバイオ燃料なども開発することができない。技術には善悪両面があり、良い部分を進めれば悪い部分も必ず現われてくる。

(平川)技術の論理、市場の論理だけではなく、社会の論理を技術開発の判断基準に入れるべきである。ヨーロッパでは、新しい技術の社会的影響を一般の人々も参加して多角的に判断している。日本でも2000年代に入ってからこうした取り組みはあるが、まだ広く浸透しているとはいえない。