自治体と政策( 09)第3回「自治体の制度」◇放送大学教授・天川 晃

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

○総合行政・市町村合併

自治体は、自治体としての固有の仕事のみならず国の仕事もしている。(融合型)

日本年金機構、法務局、ハローワークなど自治体とは別の政府組織で仕事を行うものを分離型というが、基本的に日本は融合型であった。地方自治法第1条の2は自治体のあり方として融合型(自主的かつ総合的)を宣言しているように見える。

・(松本英昭)地方自治法第1条の2で述べられていることは、分権以前からの考え方である。これについては諸意見あるけれども、自治体では総合行政を行うという考え方は憲法94条に基づいていると考える。

・小さな自治体では総合行政を行う力に欠ける。

・(松本)国による義務付けについて、本当に必要なものかどうか、その義務付けが仮に必要であるとしても小さな自治体に必要なものなのかを再検討したうえで、担うことができるかどうかということになるだろう。市町村間での対応(水平的、合併・一部事務組合など)、都道府県による対応(垂直的)があるが、本来は水平的に対応することが望ましい。

・(金井利之)自治省は、自らの政策を持たない官庁である。自治省の利益・仕事の拡大のために「総合的」という表現を使ったのではないか。しかし、現実には総合行政を自治体が行うことはできない。外交や金融もある。つまり、総合性は担うことはできないがそれに向けて志向していくという宣言をしているということなのではないか。自治体は「合併する」ことには賛成するが、「合併される」ことには反対する。力を失っても仕方ないというときにはじめて合併されることを承認する。昭和の大合併も平成の大合併も財政危機時に行われた。

・(松本)市町村の合併については一段落付いたわけだが、全国的にみてアンバランスな状況にある。これをこのままにしてよいのか。また、合併はしたいが当時はできなかった市町村もあった。

道州制

道州制は第28次地方制度調査会で論議されている。第4次の調査会では、道州は「国家的な性格を持つ」としていたが、第28次では「完全な地方自治体」、そして「長は直接公選制とする」こととなっている。

・(松本)第28次は府県合併の視点とは異なり、新しい政府を作ることを志向している。都道府県の事務の多くを市町村に渡し、より広域の事務、国の事務を行うこととなる。つまりまったく新しい政府である。自前で政策立案・執行を行う完全な形の政府である。

道州制基本法も検討されているが、国の事務を移すものであるだけに、中央政府の大改革が必要であり、簡単に行われるとはいえない。府県の数も明治中期から変わっていない。

・(金井)府県の場合は市町村とは違うメカニズムであり、拡張意欲はあるが、財政的に危機を迎えることがなく、白旗を挙げて合併に向かうということはなかった。道州制の最大の問題は、道州制が何かということが確定しておらず、今のところスローガンだけであるということである。場合によっては道州制によって国の力が増してしまうこともありうる。危機を迎えると、この制度は実現するときはあっという間に実現してしまうかもしれない。ただし、危機の際にこの制度が実現するときは集権化につながりかねない。