自治体と政策( 09)第2回「分権改革」◇早稲田大学大学院教授・稲継 裕昭

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

自治体と政策 (放送大学大学院教材)

・ 戦後、全国的な行政の統一性、公平性を実現するため機関委任事務が行われてきた。しかし、キャッチアップが終了すると、地域の特性に応じた行政のあり方が求められるようになった。

・ 土光臨調では、機関委任事務の整理、必置規制の見直しが唱えられるようになった。1993年から実際に地方分権への動きが始まる。細川政権の誕生も大きく寄与している。1995年には地方分権推進法が施行される。2000年に475本の法律を一括して改正する地方分権一括法が施行される。

・ (松本英昭)第一に、わが国がキャッチアップを終了すると量的拡大より質的満足、個性・多様性が求められ、結果の平等より機会の平等が求められるといった成熟社会の価値観に変わっていった。第二に、明治以降の中央集権による弊害、中央官庁と業界の癒着、地方への利益誘導、地方の依存心が顕在化した。第三に、国際社会における国家として果たさなければならない仕事が増え、国はこれに特化するという体制が必要とされるようになった。

・ (加茂利男)国や都道府県の持っている権限を市町村へ渡すことにより国等の関与を弱めることが眼目だった。国の事務であった機関委任事務自治事務へ変わり、自分達で事務を運営していくこととなる。自治基本条例を定め、自分達のまちはどんなまちなのか、どうしたいのかということが志向されるようになった。しかし、これを行うには一定の規模の実現は必要なことだった。交付税合併特例債自治体の合併を仕向けた。首長・議員を減らすことにより財政資源の節約と、分権したけれどもコントロールしやすい体制を作った。

・ (松本)何が変わったのか。一つは国と地方の役割分担を定めたこと、二つは機関委任事務を廃止したこと、三つは国等の関与の基本原則を定めたこと、などである。しかしこれは総論であって、実際に個別の事務に関しての分権化についてはここから動き始めることになる。

・ 公共事務、団体委任事務、行政事務は自治事務になった。機関委任事務自治事務(5割)または法定受託事務となった(その他、国の直接執行または事務自体の廃止となったケースもあった)。

・ 未完の分権改革といわれる。(伊藤正次)具体的な権限委譲、税財源の委譲が残された課題であった。小泉改革三位一体改革(骨太方針2002による。地方交付税の縮減、国庫補助金の削減、国から地方への税源委譲)が行われた。一方、市町村合併平成の大合併)が行われた。

三位一体改革のアクター、財務省総務省、政治家がある。地方交付税の縮減・国庫補助の削減は財務省、国庫補助負担金の削減・税源委譲は総務省地方交付税の縮減・税源委譲は政治家ということである。知事会ではじめて採決をすることとなった。小泉首相はまず地方交付税の縮減に手をつけた。

・ (松本)国庫補助負担金の縮減について、廃止するのではなくたんに額を減らした。これは関与をそのまま引き継いだことになる。財政力の格差も是正されなかった。

・ (伊藤)第一次分権改革では権限委譲の問題が残された。財政も厳しい。行財政面での分権が必要とされている。2006年に地方分権改革推進法が制定され、新しい分権改革が始まった。国の関与、義務付け、枠付けの緩和による地方の裁量を高めることがねらいである。また国の出先機関を地方に移すことも課題である。委員会の勧告について第一次分権改革のときと異なり内閣は尊重義務がない、しかし、これは後退ではなく、逆に大胆な提案をしやすいという効果が期待できる。逆に言うと政治の決断が求められるということになる。

・ (松本)委員会では地方公共団体を地方政府として位置づけている。これは国と同等の統治的団体であることを示すものである。個々具体の事務権限の委譲や関与の是正などに思い切った勧告を行うことが期待される。しかし各省庁からは激しい抵抗が行われている。結局は政治の強い決意が必要である。また、これで終わるものではなく課題も残されており、これを明確にする必要がある。

・ 1990年代以降地方分権改革は正しいというベクトルは一貫しており、関連する法改正がなされてきた。これは集権化を目指した明治維新とは逆の方向である。

・ (加茂)分権改革はタイミングが悪かった。平成不況のまっただなかであった。自由なお金の使い方ができるのでは、という期待があったが、1997年の不況により分権改革自体が打撃を受けた。仕事は増えて資源は増えないということとなった。そんななか市町村合併はやむなく行われたという側面もある。税源の委譲がなく、地方交付税は減額され、逆に国にシフトしている。

■コメント

地方分権にあたり直接関与した官僚、学者などの言葉を直接聞くことができ、どんな思いをこの大きな改革にこめたのかが分かり興味深い。改革の細大さまざまな場面にいやというほど携わってこられ、このことが却って、整理された思いや図式として聴くことができる。講義のスピードは速い。