財政学( 10)第2回「財政の役割と市場の失敗」佐藤主光

財政学 (放送大学教材)

財政学 (放送大学教材)

○財政学とは

・ 財政学とはそもそも何か。財政というと、予算など政府の活動からの視点、公共の福祉からの視点が頭に思い浮かぶが、この講義では、市場の補完機能としての政府の活動に視点をあてていきたい。

・ 政府は、経済学的に見ると、市場の失敗をコントロールし、健全化することがその活動の目的のひとつである。

・ 経済学の評価軸は多面的であり、この側面からは効果が高い、などといったことになる。経済学の主たる評価軸は(個々の主体ではなく)「社会全体の」効率と公平である。

・ 【効率】効率とは「限られた資源の最大限有効利用」である。この概念を説明するものとして「パレート最適」がある。なお、経済学でいう「効率性」は、個々の経済主体の収益至上主義とは異なる。

・ なぜ効率性が求められなければならないのか?労働、資本、天然資源などは有限=希少であるためである。その意味では利用という側面のみならず「無駄の削減」も効率性にかなうこととなる。

・ 最近国や自治体でも効率性が叫ばれている。この視点は、市場原理主義の観点というより、現実の問題として限られた予算を有効活用することが必要な局面を迎えているためである。

・ 【政府の規模】国民経済に占める財政の役割では、日本はアメリカと同様35%程度、フランスやスウェーデンでは55%程度になっている。つまり日本は比較的小さい政府であるわけだが、小さい政府=効率的な政府であるといえない。公共工事における無駄遣いや予算のばら撒きなども依然としてあるのが現状である。

・ 【公平】公平とは、果実としての所得分配にかかわる視点である。公平については効率と同じような決まった基準があるわけではない。公平は見る人の視点によって異なる。受益者負担が公平なのか、高所得者、担税力のある人が支払うのが公平なのか。これは応益原則、応能原則といわれる。応能原則の典型例としては累進課税があり、所得再分配を意味する。

○財政学の分析の視点

・ 【規範分析】政策の規範と実態がある。規範分析として、市場の失敗を矯正し経済の効率・公平を高めるために行われる政策がある。ただし、現実に行われる政策過程は理論によって行われるのでなく、政治過程によって行われる。例えば公共事業でも社会資本の整備という目的はあるが、実態としては選挙の票目当てということになる。あるべき政策を考えるのが規範分析である。

・ 【市場の失敗】厚生経済学の第一基本定理、「市場メカニズムが理想的に機能していれば帰結する均衡は効率的」ということがある。利己的な個人が市場メカニズムを通じて公共の利益を高めるということである。しかし、現実には環境問題などの市場の失敗がある。

市場メカニズムが理想的に働くのは、市場が決める価格に基づいて経済行動をする場合である。しかし、独占化・寡占化による価格の吊り上げなどがなされると市場メカニズムは働かない。政府はこうした価格の恣意的な決定を排除することが必要となる。

・ 質の高い、低いが分からない、情報の非対称性のある市場では、逆選抜、高いものほど排除されてしまうことがある。

・ 【外部性】そして外部性。(第三回講義)

・ 私的な財と異なり、公共財は、地域住民すべてに利益を与える。これは非排除性という。これは市場を通じて供給されることは少なく、政府が供給することが必要となる。

・ 市場の失敗としては所得格差の広がり(政府による所得再分配が必要)がある。

○財政の役割

・ 財政の機能は、資源配分(資源配分の効率性の改善。例えば乱開発の規制などの規制、公共財の供給(国防、道路、産業インフラ、公園、上下水道))、所得再分配(所得分配の公平の確保。セーフティネットとして弱者となったときに保障的役割を持つ)、経済安定化(安定的な経済活動の確保。景気の変動の緩和。政府のみならず中央銀行金利も関係する。)の三機能を持つ。

・ 45度線、IS-LM分析などは経済安定化機能に属する。

・ 公共事業などは、資源配分、経済安定化、所得再分配の三機能を同時に実現する機能を持つ。

・ 地域における経済活性化の手段は公共事業ばかりではない、しかし活性化といえば公共事業という考え方は根強い。

・ 財政学の観点としては、まず機能を考え、それを実現するための政策は何か、という考え方で見ていく。

■ コメント

・講義は大変まとまっているが声のトーンが高いので聴きづらい。