現代の国際政治( 08)第1回「テレビと国際政治/もうだまされないために」◇放送大学教授・高橋 和夫

現代の国際政治―9月11日後の世界 (放送大学教材)

現代の国際政治―9月11日後の世界 (放送大学教材)

・ 2001年9月11日、アメリカ同時多発テロによって国際政治は新しい局面に入った。この一ヵ月後にアフガニスタン攻撃、2003年にはイラク戦争が行われた。しかし、勝利はしたものの、それぞれの国は内戦状態となり、アメリカは苦慮している。

ソ連の崩壊後、アメリカは唯一のスーパーパワーであったが、その地位は揺らいでいる。この講義では、以下の視点から国際政治を見ていく。

1.アメリカの視点

2.アメリカに対立するイスラムの視点

3.ヨーロッパや中国・インド・ロシアの視点

4.地球環境、エネルギーの視点

・ 第一回はテレビがどのように国際政治に影響を与えるのか、また国際政治はテレビをどのように利用するのかを見ていきたい。

フセイン銅像が倒される印象的な場面があるが、銅像を引き倒すにあたっては、たしかにイラクの人も引っ張っているが、実はこの銅像を引き倒しているのはアメリカの装甲車である。また、これに参加しているイラク人はごく一部で、多くのイラク人は遠くから傍観していた。しかし、テレビを見た人は、多くのイラクの人がフセイン像を倒して喜んでいるかのような印象を持った。

・ アメリカにおける政治の舞台におけるテレビの活用は、1960年のニクソンケネディの大統領選である。論戦自体は五分五分であったが、テレビ映りという点では圧倒的にケネディであり、ケネディは大統領選を勝った。一方、敗れたニクソンはこの後テレビでの討論を一切しなくなった。

ニクソン大統領の中国訪問(1972年)では、周恩来首相と空港で握手をするシーンが印象的である。実はこのとき中国側は怪訝に思った。タラップをニクソン夫妻のみが降りてきて、他の高官はまったく降りてこなかったからである。それは、大統領選のためにニクソン夫妻がテレビを独占する必要があったためである。外交というよりは内政のための演出であった。

・ 1998年のクリントン夫妻の中国訪問では、ヒラリーは搭乗していたエアフォースワンと同じ色の服を着ている。それは、クリントンはすでに大統領選を終えていたが、ヒラリーは次期の大統領を目指していた。そのキャンペーンのため目立つ服装をしていたのである。

・ 一方、安倍首相の韓国訪問では、飛行機のタラップで後ろから沢山人が降りてきてしまっており、首相夫妻は目立たなくなってしまっている。これは直接国民から選ばれる大統領と議員から選ばれる首相との違いでもあるではないか。

・ テレビを利用するのでなく、テレビで失敗してしまうこともある。ニクソンの後継者であるフォード大統領は、国民の選挙によって選ばれるのでなく、ウォーターゲート事件後に、当時自身が副大統領だったため、空席の大統領ポストへそのままスライドした。テレビ映像で、フォードはタラップから何度も転んで落ちている姿を見せている。マスコミにはその姿をからかわれ、結局優れた大統領という評判は得られなかった。

ベトナム戦争では、1963年に裸で逃げる少女の写真や、ナイフで脅される人の写真などがセンセーショナルに伝えられた。しかし南ベトナム政府に対して焼身自殺で抗議する僧侶のテレビ映像はさらに衝撃的であった。こうした映像をみてアメリカ国内における反戦意識が高まった。ベトナム戦争はテレビに映された初めての戦争である。アメリカの残虐さが映像を通して伝わった。政府はベトナム戦線で勝っているとアメリカ国内に伝えていたが、映像は政府が言っていることが嘘であることを直接伝えた。

・ 最後に、1977年にシャー・イラン国王がワシントンを訪問したときの映像も時代を変えることとなった。ホワイトハウスでの歓迎式典の行われるなか、国王の支持者と反支持者が会場外で乱闘し、催涙ガスで鎮圧された。そして映像では列席者であるカーター大統領をはじめ関係者が涙を流すシーンが流された。イランの人々はこれを見て、この騒ぎはアメリカがわざと起こしたのだと考えた。シャー国王への批判がイラン国内で高まり、革命が起きた。

・ 映像は操作されるということを今回は学んだ。映像は客観の顔をした主観に過ぎない。だれが編集した映像なのか良く考えてみる必要がある。言葉を換えるとテレビは嘘をつくということである。