文献学( 08)第1回「文献学の世界」◇放送大学教授・杉浦 克己

文献学 (放送大学教材)

文献学 (放送大学教材)

・ 文献学(philology)とは何か、また実際に授業でどんなことを伝えるのかを説明したい。このほか書誌学(bibliography:本についての学問)、訓詁学(中国の文献学、一字一句で考える)、目録学(中国の書誌学)、古典学(classics)、古文書学などがある。これに対し、文献学は本にとどまらずさまざまな古い時代に書かれた文献資料を読む学問である。書誌学とは異なり、一字一句を読み、確定し、解釈する学問である。

日本書紀の写本は漢字だけで書かれている。現代のわれわれにとっては読みづらいが、明治期など基本的な漢字の素養のあった時代には読みやすかった。振り仮名や記号が書き込まれている場合もある。返り点や送り仮名による訓読(日本語のようにして読む)である。

・ 訓読ができるようになったということは、漢字を訓読みにすることと表裏一体である。

日本書紀抄、日本書紀の解説書であるが、漢字仮名交じり分で書かれている。

・ 辞書として康煕字典といった中国の辞書の日本版が江戸時代に刊行されている。

鎌倉時代室町時代、それぞれの時代に辞書があった。辞書を見ると、書き表し方、解釈の仕方がわかる。

・ 書状のような実用文書を歴史文書というが、こんなものも読んでいく。また、保存の技術も重要である。もっともよくある傷みは虫食いである。

・ 文献学でもっとも基本的なこと、それは一文字一文字確定して読み取ることであるが、ある字を自明なものとして受け取りがちだが、例えば「あ」という文字も、人によって書き方が変わってくるし、その基本形だけでも9種類ほどある。字形、字体、書体の三要素がある。字形の違いは、違う文字ではないという程度の差である。字体の違いは、土と士の違いなど違う文字である差である。書体の違いは、ゴシック、明朝、楷書、行書など書く人による衣装の違いである。さらに異体字がある。事実上同じ字、つまり島と嶋、鉄と鐵、崎と碕などである。

・ 次回からは実際の史料を読んでいきたい。難しそうに見えるが、慣れれば大変ではない。書いた人の意図を知るという楽しみもある。