労働経済( 08)第15回「格差とセーフティーネット」◇松繁 寿和

労働経済 (放送大学教材)

労働経済 (放送大学教材)

・ 日本はニュージーランドのように規制緩和に向かっている。規制緩和され、新しい競争にさらされ、貧困層が生まれている。

ジニ係数をみると、ローレンツ曲線に沿った0はもっとも平等、一方で1はもっとも不平等となる。

・ 学歴別賃金カーブは最も大きいところで二百万円弱の差が生じている。

・ 学歴を手に入れる教育にコストがかかるとすれば、親の経済力が必要となる。すなわち本人の能力だけで学歴や所得が決まるとはいえなくなる。

・ 経済全体の構造として、能力が低くても勤まる職業には低賃金労働者が流入し、格差が広がる方向にある。また、社会や組織はヒエラルキー構造をもっている。労働意欲を持たせるために賃金に格差をつける。このため格差が生まれる。働くインセンティブを増やそうとすると格差は広がる。加えて非正規化の問題もあり、格差はさらに広がる。

・ この歪みをならすため、所得の累進制度、社会保障という所得の再分配制度がある。

・ 日本が一億総中流社会から格差社会へ入ったという認識が高まっている。高齢化、非正規化、規制緩和がこれを生んだ理由だとしている。

・ 高齢世代は貧富の格差の大きい世代である。これが増えれば全体としての格差も増える。しかしこれはそんなに心配すべきことではないともされている。

・ 非正規化は、失われた十年、十五年において、パート社員、契約社員派遣社員を増やした。これは賃金が安いこと、景気が悪くなれば解雇できることなどがある。非正規には女性、若者、フリーター、ニート、高齢者が多い。こうした人をどう処遇するか、ということが政策の課題となっている。

規制緩和は、小泉政権下で進められ、政府の関与を少なくしたが、これにより強弱の格差が付いた。非正規労働者の所得が低下した。

・ 日本は最低賃金が諸外国に比べて低い。文化的な最低の生活を保つために必要な額である。これがなぜ日本で低かったのか。若者と女性に非正規が多い。若者には親がいる、女性には夫がいる、このため低くても良いではないかという配慮が日本で続いてきた。しかし、こうした人が30代になってもフリーターであったり、離婚率の上昇により独立して生計を営んでいる。したがって最低賃金のアップは日本にとって必要な目標である。

・ 税制については、日本の所得税は過去は累進度がかなり強かった。しかし、とくに高い所得層からさまざまな要求があり、所得税の累進度を30年間に渡って下げてきた。以前は70~80%だったのが、最高で37%になった。再分配後の所得格差につながっている。

社会保障、年金、介護、医療などであるが、財政がひっぱくしている。現役で保険料を払う人が減り、一方で引退した人で給付を受ける人が増える形になっている。そうなると、給付水準を下げざるを得ない。この面からは所得の再分配機能は弱まっている。

・ 消費税、これは逆進性があるが、これにより所得の再分配効果を弱体化させる。

・ これらにより貧富の格差は拡大している。

・ 機会の平等と結果の平等であるが、親の世代の階層が子の世代に影響を与えている。機会は、教育、職業、昇進など、経済活動を行う前の状態でどれだけの平等が保障されているかということである。以前の日本では機会の平等が高く、結果の平等も高かった。学校も公立が中心であり、子の意欲と能力があれば教育を受けることができた。

・ 今では、機会平等は黄信号が点っている。親の教育水準、職業などが子に影響を与える度合いが強くなっている。象徴的な例としては、政治家と医者は上層の二職業である。政治家も医者も世襲である。医学部に進学する子供の40%は親も医者である。一方、母子家庭に育った子供は、ほとんどが中卒か高校中退で終わっている。つまり機会の平等は相当怪しくなっている。