労働経済(’08)第7回「海外との競争」◇大阪大学大学院教授・松繁 寿和

労働経済 (放送大学教材)

労働経済 (放送大学教材)

1.財・サービスの移動と労働需要

2.企業の移動と労働需要

3.労働の移動

1.財・サービスの移動と労働需要

・海外企業からの安価な財の輸入を行うことにより、供給曲線はなだらかになり、需要曲線との交点である均衡価格は下がることになる。これにより企業にとっての利潤最大化点は下がり、したがって労働需要は下がることとなる。

・これにより必要な労働は少なくなり、また一人あたりの給与も低くなる。

・最近は財のみならずサービスも輸入している。ソフトウェアの開発を外注したり、コールセンターや間接部門を海外に設置するなどしている。

・財だけでないため、ブルーカラーのみならずホワイトカラーも影響を受けている。

2.企業の移動と労働需要

・安い財の輸入を受けて、生き残りのために企業は外に出ていっている。中国、東南アジアへの直接投資が大きくなっている。1997年の通貨危機で冷え込んだが、2000年以降、とくに中国への直接投資は大きい。

・日本企業が海外で生産した財を日本に輸出(逆輸入)する場合、海外からの輸入に関する供給曲線はさらになだらかになり、均衡点は下がり、場合によっては、輸入ですべての財を賄ってしまえることとなる。

・企業の海外移転は、必ずしも安い労働力を目当てにしているばかりではなく、北米や西欧への移転も増加している。貿易摩擦を避けるために、また、現地の市場に合わせた商品の生産、為替リスクの回避などが要因の一つとなっている。また、工場のみならず、管理部門、さらには研究部門まで海外に移転するようになっている。研究部門は、より現地に合わせた商品の開発、情報の収集などができるようにするために移転している。

・現地法人では、より上位の職に現地で採用した者をあてていくことになる。昇進の機会は労働意欲の向上につながっている。これは日本人を派遣するよりも給料も安く、経費もかからない。(人材の現地化)

・技術の伝承過程や管理部門への参加を通じてノウハウの移転が進んでいる。

3.労働の移動

・海外からの労働力の流入が始まると、労働供給曲線がなだらかになり、つまり均衡価格である労賃は下がってくる。

・これまでは海外からの労働者はそれほどスキルを有していなかった。しかし、IT化などによる高技能者の流入、また、海外企業による日本企業の買収などにより、高位の職(経営陣)に海外からの労働者が就くようになってきている。

■コメント

・非常にわかりやすい講義(新古典派

・統計数値なども援用して実態をふまえている