成田→ホーチミン

■行程の概要

18:40　成田空港発　全日空

22:40　ホーチミン　タン・ソン・ニャット国際空港着

■日記

７月１１日（日）

成田空港第一ターミナルに着くとそのまま４Ｆ出発フロアの全日空のチェックインカウンターへ向かった。チケットは、あらかじめ旅行会社から送付された「ｅチケット」を識別機にかざすと、座席の位置などを画面で選択した上で係員の手を煩わすことなく発券されるようになっていた。脚を伸ばせるかと思い非常口近くの座席を選ぶこととする。

出発予定時刻が１８：４０と遅い時間であるためか、通常であれば込み合っている出国審査は、１ゲート２～３人が並ぶほどの状態ですんなりと通過できた。

座席に着くと、窓際には先客としてベトナム人と思われる３０歳代くらいの女性が座っていた。１８：５０分過ぎには飛行機はタラップを離れ、１９：１１に離陸した。およそ６時間で目的地であるベトナムのホーチミン／タン・ソン・ニャット空港に到着する予定である。

今回、ベトナムを旅行先に選んだのは、まだ訪れていないという単純な理由以外には、ポール・セルー『鉄道大バザール』で現れる鉄道の風景に興味があったのと、数年前に初めて訪れたタイからシンガポールにかけての東南アジアの旅の中で、バンコクやペナンなど街の持つ固有の猥雑さに興味を惹かれた、ということがある。日常生活がある程度変化なく繰り返される中で、どこでもいいから外へ出てみたいということがさしあたっては一番大きな理由ということになるだろうと思う。

機中は前回の東南アジア旅行時もそうであったが、空調の効きすぎなのか、それとも外気に冷やされているのに暖めていないからなのか、非常に冷えている。何かを被っていないととても過ごせそうにない。すると隣の女性も寒くてブランケットが欲しいという。そんなことから先方も旅の道連れと思っていろいろと話しかけてくるようになった。こちらは久しぶりの海外旅行でしかも英語はホンの片言である。だが、ちぐはぐなやり取りのうちに、どうやら彼女はシカゴから日本を経由してベトナムへ戻るところらしいということがわかった。ご主人がドイツ系のアメリカ人でその家族に会ってきたというところである。まる一日の飛行機はさすがに堪えるらしく、くたびれ切っているようだ。

この彼女、すでにアメリカの国籍を取得しており、純粋にはベトナム人ではない。そのせいかアメリカ人女性らしい一種の性的役割の意識ももっており、重い荷物を降ろすことはもちろん、ペットボトルのふたを開ける、足りないブランケットや入国カードをＣＡに持ってきてもらう、すべて私が御用聞きよろしく行うこととなった。機内食を食べていても「自分のケーキはいらないからあなたが食べなさい」という。こちらは二個もケーキを食べることとなってしまったが、彼女いわく、私はもっと太った方がよいとのことである。また、彼女、到着が近くなって私に自分の持ってきたハッカ味のキャンデーをよかったら食べなさいといってくれた。ところがこれを渡そうとする際、てっきりこちらは手を広げていれば数粒を落としてくれるものかと思いきや、箱をそのまま手に落としてくる。些細なことだが、自分の好きな分だけとりなさい、というこれも文化の違いだろうと思う。

いよいよホーチミンの空港が近くなると、彼女は長い時間窓に顔を寄せて自分が生まれた街の夜景に見入っていた。

ホーチミンへの到着は２２：４０、すっかり夜も更けた状態である。空港を出ると旅行会社の添乗員やその他迎えの人々、またタクシーの運転手などが人だかりを作っている。しつこく運転手が自分の車に乗らないか、と声をかけてくるのは他の東南アジア諸国と変わらないところだ。空港前のロータリーにはひっきりなしにバスやタクシーが往来して旅行者を乗せて去っていく。中には「ＨＩＳ」というネームを付けたバスもあり、日本国内で見るなら当たり前のことだが、こんな夜中の熱帯の空港にまでたくましくそのビジネスを広げているのだ。初めて訪れた国に自分の国の企業名が当たり前に見られることに少々安心もする。

空港からは、添乗員の付き添いでバスに乗り１０ｋｍ弱ほど離れた市内のホテルへ向かう。添乗員は明るいベトナム女性で、夜中のバスの中でにこやかにてきぱきとスケジュールや旅行中の注意事項などを説明する。同じバスで市内へ向かうのは全員日本人で、カップルやＯＬのグループなどであり、やはり若い人とりわけ女性が中心である。

初めての国・都市を訪れる際、空港から夜間にバスで都市の中心へ向かうとき、一種独特の高揚感がある。ヘッドライトや街燈に浮かび上がる建物、街路樹、通り過ぎる車や歩行者を見ながら明日日が昇ったらどのように姿を変え、また姿を現すのか、期待が高まっていく瞬間でもある。今回このホーチミンという街を走りながら、すでに東南アジアらしい夜の深さのようなものは充分に感じ取ることができた。

【#01　成田空港で】

【#02　真夜中のホーチミン空港へ到着】

【#03　到着ロビー出口】

【#04　三泊することになる部屋】