バレエ『ライモンダ』新国立劇場

中世ヨーロッパの十字軍遠征をテーマとしたバレエである。遠征する騎士ジャン・ド・ブリエンヌ(デニス・マトヴィエンコ)のフィアンセであるライモンダ(スヴェトラーナ・ザハロワ)は、サラセンの首領アブデラクマン(森田健太郎)からも求愛される。アブデラクマンはライモンダを無理やり奪おうとするが、そこに遠征から戻ったジャンが登場し、決闘となる。決闘に勝利したジャンはライモンダと結婚式をあげる。

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バレエは全三幕で、グラズノフの作曲によるものである。全体を通してみた印象としては、初見であるせいかもしれないが、ここが見どころであると言えるような部分に欠け、坦々とした流れと感じられた。ただし、部分では、髪飾りや衣装の紋様(衣装は第二幕の濃いロイヤルブルーのチュチュ、青い宝石の髪飾りが美しかった)、そして頭に手をやり腰に手をあてがう仕草などは、中世ヨーロッパをほうふつとさせるものであったし、この演目ならではと感じさせる振り付けが、群舞の複雑な十字形のフォーメーション移動、人と人が別方向に向かって網の目のように行き交う場面などに見られた。

また、ザハロワの踊りを生で見るのは初めてだった。テクニック、美貌ともに素晴らしい。印象に残るのは第三幕のヴァリエーション(ピアノ伴奏)で、ゆったりとソロで手をパチンと鳴らしながら踊る場面だった。ザハロワというと、youtubeに掲載されていた「オデットのバリエーション(『白鳥の湖』)」で見せる超越した美しさが印象に残っているが、これから見ると少し物足りないようにも感じられ、一方では全体の調和としてみると、少しこの人浮いているのでは、と思える部分もあった。例えば第三幕では動きが群舞と合っていなかったり(少しタイミングが遅い?)、テクニックが高すぎるのか一人だけ脚が上がりすぎていたりという場面である。また、バレエでは御法度とされるポワントの足音もかなり軽快に響いていたりした。見終わって思うのは、このダンサーは、飽くまでもソロで、自分一人で踊る、しかもゆったりしたアダージョを踊るのが合っているのではないか。そうするとあのゆったり感が違和感なく観客に「味」として伝わるようになる。その代表的な例がプリマと群舞は同じ舞台にいながらも別々に踊る『白鳥』なのだろうと思われる。

まとめると、音楽としては美しい部分も散見されるが、基本的に平坦であり、またストーリーや振り付けも少し魅力・調和に欠け、舞台装置も印象に残るものではなかった。

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<追記1>

歴史的に見ると、十字軍遠征の歴史は極めて血生臭く、異教徒に対しては何をしてもよいといった考え、人間の残酷さを地で行くものであるが、ジャンとアブデラクマンの決闘はその血生臭さを感じさせる結末だった。こうしたところは歌舞伎のような「様式」で処理する方が舞台としてはスマートなのではないかとも思われた。

<追記2>

第一ヴァリエーションを踊った厚木三杏さんの技術力の高さが感じられた。ゆったりとした滑らかさの表現が図抜けており、さすがはソリストといったところだった。