オペラ『エジプトのジュリオ・チェーザレ』グラインドボーン音楽祭(UKオペラ@Cinema)

ヘンデルというと『水上の音楽』のようなバロック音楽のイメージだが、オペラも作っていたのかという素朴な印象だった。上演されたのはグラインドボーン音楽祭で、ロンドンから南へ約80キロにあるイースト・サセックスにあるオペラハウスがその会場となる。

まず、三幕で計227分というきわめて長い作品(あの長い『フィガロ』でさえ185分である。)であり、UKオペラの中でも休憩を二回挟むのはこの作品だけである。一応覚悟していったが、確かに長かった。1時半に始まって、終わったのが6時なのだから、その長さがわかることと思う。おそらく実際の音楽祭では幕間を80分程度とるということなのでこれは一日がかりの観劇となるはずだ。

実は、話の筋自体は割合平坦で分かりやすい。フィガロのような入り組んだ話ではない。ここでは筋自体の詳細は避けるが、エジプトに乗り込んだジュリオ・チェーザレジュリアス・シーザー)が、クレオパトラや夫であり父ポンペイウスを殺害されその敵討ちを果たしたいと考えるコルネリアやセストと力を合わせ、エジプトの王トロメーオに立ち向かい、いったんは退けられるものの最後には勝利するという筋書きである。

なぜ長いか。これは歌が繰り返し繰り返し繰り返し・・・歌われるためである。おそらく同じ歌詞を一つのアリアで20回くらい歌っているのではないか。これが、何となく似たようなバロックの曲調で演奏される。ところどころは『水上の音楽』そのものと思われるような部分もあった。ただ、それほど単調にはならなかったのは舞台装置を含めた演出のせいか。

舞台の間口が狭いせいか大規模な舞台装置をセットできるわけではない。ただ、舞台の背景にいつも姿を現している地中海の波涛の演出(大きないくつかのロールを回転させて表現する)は秀逸だった。また、天候が荒れたときの表現も見事だった。ただし、洋上に近代の軍艦や飛行船が現れたり、敵討ちがピストルで行われたりと、時代設定はあいまいなものになっていた。

歌手は、チェーザレ役をメゾ・ソプラノが務めたり、トロメーオ役をカウンターテナーが務めたりと、カストラート華やかなりし時代がしのばれるものであった。ただ、身ぶりなどをみると、荘重なバロックの雰囲気一辺倒にならないように、軽やかさをまとったものになっていた。「楽しめるオペラ」というものとは少し違うけれど、さまざまな味付けで、オペラ作曲家としてのヘンデルを改めて聴くことができるようになっていたと思われた。

たしかに、「いつもの」親しみのあるオペラというわけではなく、どちらかというと博物館から取り出したようなきらいがあるけれども、オペラの原初的な形、その後の隆盛につながる萌芽のようなものを感じ取ることはできた。

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