バレエ『アラジン』新国立劇場

今日は、舞踊部門の次期芸術監督となることが予定されているデヴィッド・ビントレーにより創作された『アラジン』を観に行った。三幕からなり、中国・モロッコを舞台として展開される。アラジンという青年が、街中でとらえられたところをマグリブ人に助けられ、砂漠に魔法のランプを探す旅に出る。砂漠に空いた洞窟に忍びこみ、アラジンは首尾よくランプを見つけるが、マグリブ人に渡そうとせず洞窟に幽閉されてしまう。しかしこのランプの精ジーンの力を借りてもとの町に戻ってくる。町に戻ったアラジンはちょうど宮殿の浴場に向かうスルタンの娘を見染め、二人は恋に落ちる。アラジンはスルタンの宦官にとらえられ死刑判決を受けるが、機転を利かせた娘がアラジンにランプを渡し、ランプの精により種々の宝石をアラジンはスルタンに献上し、アラジンは娘との結婚を認められる。

さて二人は結婚し、一緒に住み始めるが、アラジンの留守にマグリブ人が訪れ、娘を騙してランプを手に入れ、娘もろともモロッコの住まいへと連れ去ってしまう。娘はもはや逃げられないものと覚悟して死を選ぼうとするが、そこにアラジンが現れ、マグリブ人に薬を飲ませるよう仕向け、ランプと娘を奪いかえす。二人は元の国に戻り、愛を誓い合って大団円となる。

と、このようなストーリーだった。

第一幕の最初から極めてオリジナリティの高い作品であることがわかった。たとえば、場面展開の早さ、オリエンタルな味付けがされ、アクロバティックで一部組み体操のようでもある舞踊などがそれである。また、洞窟の中で展開された、オニキスとパールから始まって、ルビーの精に至るまでのディヴェルティスマンは、古典的な構成も重んじて作っていることが伺い知られた。また、第二幕の浴場のシーンなどは、建物の天窓から差し込んでくる柔らかい光が効果的で、舞台装置にも相当力を入れているようだった。また、空飛ぶ絨毯で飛行するところなどは、薄いスクリーンに投影された光の効果だけで表現していたが、見事と思われた。

全体としてとてもまとまりのある作品で、初めてバレエを見る人にも分かりやすく飽きさせないオリジナリティあふれるものだった。ただ、古典的な作品と比較すると、舞踊そのもので感動するような場面は少なかったように感じられた。それは、展開を早くするためであろうか、たとえばグラン・パ・ド・ドゥのような大掛かりな構成の舞踊などを取り入れていないこと、があるかも知れない。どちらかというと舞踊よりも舞台が淀むことなく、いくつもの山場を伴って展開することで魅せる、新しいスタイルのバレエを提示していると思われた。全体の構成としては、第一幕で見せる盛り上がりが、第二幕、第三幕に行くにつれやや下がり加減か。「あれ、終わっちゃった」という気にならなくもないフィナーレだった。

今回のキャストはアラジンに八幡さん、プリンセスに小野さんとフレッシュな顔ぶれだった。今持っている力を十分に発揮していたのではないか。この主役抜擢をきっかけに古典作品にも挑戦していくと思われる。今後にも期待したい。

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朝日新聞11/18の記事から)

新国立劇場『アラジン』-きらめき、万華鏡さながら-」

・緻密できらびやかな振り付けがいい。正統的な古典のボキャブラリーだが、高度なテクニックをハイテンポに畳みかけ、更にもう一ひねり装飾を加えてある。日本のバレエ特有の切れの良さ、軽快さが十二分に生きる語法だ。

・特に第一幕の財宝の洞窟の場面は感動した。宝石ごとに動きのスタイルを変え、小さなフレーズも各人の向きを変え、時間差をつけて連動させるので、きらめくような集合図形ができあがる。色とりどりの宝石たちがそろって踊るコーダは万華鏡さながら。

・この振り付けをこれほど繊細で強靭、軽やかに踊れるバレエ団は海外にもほとんどないはずだ。

・月の中に浮かぶプリンセス、巨大な蛇腹の階段の洞窟、透かし模様の壁の愛の家、空飛ぶじゅうたんなど、照明の効果をフルに活用した舞台美術もとても壮大で美しく、演出のアイデアも多彩だ。