西洋美術館『ヴィルヘルム・ハンマースホイ展-静かなる詩情-』
実はこの画家についてはまったく知らなかった。日本では初めて行われる回顧展のようである。たまたま美術館脇を通ったときに展示を紹介する看板を見て、その光の表現の繊細さに惹かれ、穏やかな秋の日に訪れた。
ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864~1916)は、デンマークのコペンハーゲンの裕福な商家に生まれ、王立美術アカデミーで美術を学んだ。
ハンマースホイの絵の特徴は、まず静謐さとでも言おうか、北欧独特の空気の冷ややかさがある。街路や宮殿を描いているが、ここは白と灰色に満ちた静まり返った世界であり、人の姿はまったく見られない。
もう一つのもっとも大きな特徴は、冬独特の低い太陽の光の表現である。自分が住んでいたコペンハーゲン中心部のストランゲーゼ30番地のアパートだろうか、住居の窓から差し込む弱い陽光と、妻のイーダの背中が描かれた一連の絵は、少し寂しげでありまた清らかとも言えるような日常生活の様子を切り取っている。
太陽の光が一番美しく見えるのは冬だと思う。ものの陰影がもっとも明瞭に見える時期である。オランダのフェルメールの窓辺では明るく散乱していた光が、デンマークのハンマースホイの窓辺ではそのままゆらぎつつ静かにとどまっているように見えた。
【#01 若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ】
【#02 陽光習作】
【#03 室内、ピアノと黒いドレスの女性、ストランゲーゼ30番地】