バレエ『ラ・バヤデール』新国立劇場(NHK教育『芸術劇場』2008年8月1日放映)

これは、2008年5月20日と24日に新国立劇場で行われた公演を放映したものである。

まず最初に中條誠子アナウンサーから牧阿佐美新国立劇場芸術監督へのインタビューがあり、作品の内容や新国立劇場の取り組みなどについて語られた。

この作品の舞台となるインドは、牧氏の父親が研究していた土地であり、そうした研究もふまえて衣装などを作っているとのことだった。父親にゆかりの深い土地ということもあり、作品を構成するための情熱もほかの作品以上のものがあったようである。

舞台の構成要素として重要な「マイム」の説明もあり、「自分が舞姫の身分であること」を示す水がめを持った形のマイムや、曲げた右腕を下に力を込める「ニキヤを無きものにせよ」というマイムなどについて説明があった。たしかに、言葉のやり取りのないバレエにおいては、このマイムの意味を知っていると一層明瞭にストーリーを追うことができると思われる。

演出については、本来は3時間かかる演目を2時間というスピーディさを意識した構成に再構成したり、ニキヤが毒蛇にかまれて死ぬシーンで、ソロルがニキヤを抱き抱えるのではなく逃げてしまうという形にまとめるなど心理状態のより的確な表現に心を砕いたようである。

なお、今後の新国立劇場の展開としては、コール・ド・バレエでは一定の水準に到達したので、とりわけソリストについてはさらに一歩進んで「芸術家」を目指して欲しいとのことであった。

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主役のニキヤを演じたスヴェトラーナ・ザハロワについて。ザハロワについてはかねてから評判を聞きつつも、その舞台を通してみるのは初めてだった。実際に舞台を観ると、美しい伸びやかな肢体はもちろんのこと、気品、優雅さ、アラベスクの美しさなどが印象に残った。その卓越したバレエ技術・表現力ともに世界を代表するバレリーナであるという感を強くした。

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ザハロワの一人舞台というわけではもちろんない。ソロルを演じたマトヴィエンコ、ガムザッティの湯川麻美子、大僧正のゲンナーディ・イリインなどそれぞれの持ち場で好演であった。また、印象的なシーンとして、第三幕の群舞のシーンは外すことができない。これはソロルがアヘンを吸って影の王国の幻影を見、その中で死んだニキヤの「影」である32人が群舞を繰り広げる場面である。最初の説明にもあったとおり、劇場の奥行きを効果的に利用して32人が途切れなく登場しては舞い続ける。たしかに、全体の構成からすると少々の不自然さはあるかもしれないが、その規模・美しさは間違いなくこの作品の顔となる部分であると思われた。

舞台装置についても触れておきたい。第二幕の婚礼の場における舞台設定は、天井から幕を吊るして室内の設定とし、遠景に窓外の寺院を眺望できるような配置となっていたが、きわめて奥行きがあり、またインドらしい情景の表現がうまく行われているという印象を持った。

音楽は、作曲家レオン・ミンクスによるものである。聴くのは初めてだったが、バレエ音楽の基本を押さえた聴きやすい音楽だったと思う。

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