国立西洋美術館『コロー展』

カミーユ・コローは、19世紀フランスの画家であり、ロマン派から印象派への過渡期を生きた。

初期は明るい作品を多く描いたが、後期は森の風景などを中心にやや暗い色調の絵を描くようになっていった。旅先で素材を探してデッサンし、パリに帰って仕上げていたようである。

コローの絵で強く印象を受けたのは、光の質感のようなものだ。とくにこれは「明るい時代」のものと思われるが《ルーアン近郊のボワ=ギョームの屋敷の門》(1822年)、昼下がり特有のほこりっぽいようなあたたかく乾燥した空気が伝わってくる。

また、《ヴィル=ダヴレーの想い出、森にて》(1872年)は、おそらく日没後で少しだけ光が残っている森の情景を描いている。日が没して、なおまだ夜ともいえず、しかし光のない夜よりも却って心に不安が忍びよってくるような時間帯の森の情景を描いている。

印象派は、自分が本当に美しいと思える情景を心象に残された風景のまま描いているところが特徴であると思うが、コローの絵は、漂うけだるさ、忍びよる不安、なつかしい虚脱感、といった心象を自然を描くことで表現しているところが特徴であり、そこが自分の好きなところでもあると思われた。

また、画法の特徴である、木の梢の一本一本の枝を明確に描かず黒くぼかしてしまう描き方も、ちょうど昼下がりや闇の迫る森を描くのに効果的であるし、それによって風の動きさえ感じることができるという印象を受けた。

なお、展覧会は、平日の午前中にもかかわらず大盛況だった。前回のモディリアーニ展サントリー美術館)といい、最近はどうしても人の頭越しにしか絵を見ることができないのだろうか。好きな人だけ来ればいい・・・と思うのだが。

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