バレエ『白鳥の湖』新国立劇場

日本を代表するオペラハウスである新国立劇場については、興味がありつつも少し離れた初台にあるため、これまで訪れる機会がなかった。しかし、偶然ホームページで確認したところ、中高生当時にはその旋律を頭の中で再現できるほど聞き込んだバレエ『白鳥の湖』が上演される予定であるとのこと、また同僚からも素晴らしい劇場であるとの薦めもあり、今回思い立って訪問することとした。

まず、オペラハウスは、想像以上に素晴らしいものだった。ヨーロッパのような石造りの重厚さや調度のぜいたくさはない。たとえば、オペラハウスの豪華さの象徴でもあるシャンデリアや天井画、またビロードでしつらえられた内壁や客席の小ぶりな照明装置などはない。しかし、木を素材として、ある種伝統的なオペラハウスがヨーロッパ型とは違った形で再現されているといった感じで、いかにも日本らしく手堅くきっちりと作ったという印象だった。(いわゆるヨーロッパのオペラハウスの絢爛豪華さについては、当時ハプスブルク家など国を支配する貴族がその富をふんだんにつぎ込んで作ったという歴史がある。消防法など法律の問題もあるが、もっとも大きな違いはそこだろう。)

一方演目については、こちらも期待を上回るものだった。今回、オデット/オディールを初演の川村真樹さん、ジークフリート王子を中村誠さんがつとめていたが、序曲においてオデットがロートバルトにより白鳥へ姿を変えられてしまうシーンから、ぐいぐいと舞台に引き付けられた。また、東京フィルの演奏もすばらしく、ややスピーディではあったが重厚な響きを聞かせていた。全体の白眉は第三幕の舞踏会、各国の文化を髣髴とする絵巻が繰り広げられていった。とくにスペインの踊り、ハンガリーの踊り、ポーランドの踊りのコンビネーション・衣装が印象的だった。(この一連のシリーズはチャイコフスキーの音楽がまるでその国々の音楽そのもののようであり、秀逸である。)

川村真樹さん、主役としては初演ながら可憐なオデットをよく表現し、専門的な見地での評価などとてもできないが、非常に好演だったのではないか。

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演出はコンスタンチン・セルゲーエフ版をベースとしたもので牧麻佐美芸術監督による。最後のクライマックスのシーンで、オデットと王子が昇天するのでなく、ロートバルトを退治して結ばれるという演出には異論もあるようで、たしかに「滅びの美学」をもっている日本人にとってはそちらの方が感動的なのかもしれないが、全体の評価を下げるものではないと思われる。

ともかく全編感動のしどおし。夢を見させてくれるとでも言おうか。舞台を観てのこのような感覚も久しぶりのことと思う。ただ、当日学生団体が一緒で、場内のざわつきが幕が開く直前まで続き、これは困ったもの。だが、幕が開くとざわめきも静まった。舞台が黙らせたといってよいかも知れない。(ただし、今後は学生団体が入る日は避けた方がよいかもしれない。興味のない生徒を無理やりつれてきても仕方ないと思うのだが・・・。)

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